ご機嫌斜めの由利を見ている宗久が話を切り替えた。
「弥生さんがアイドルを泣かせた話って実際どうだったの。」
「それ何、私聞いたことない。」
 由利はまた弥生さんの話、何考えてるのと思ったが自分の知らない弥生を宗久が知っているのが気になった。
「そうか、由利ならとっくに知ってると思ったよ。」
「それ、いつの話。」
 由利は弥生の霊が近くにいるのか、それとも復活の魔法を使ったのかなと考えながら宗久に尋ねた。
「由利と結婚する前だな。先生と二人の時にサラッと話してくれた。」
「大ちゃん、きちんと話して。そしたらさっきのこと許す。」
「 分かった、分かった。話す。」
 宗久はしょうもないなと言う顔をして話し始めた。

「先生と弥生さんが芝浦の海沿いを歩いていたら売り出し中のアイドルが撮影してたんだって。先生がそっちに歩いて行くと弥生さんが後を付いて行きながら言ったらしい。〈あの容貌でアイドルなんだ。この間会った私の従姉妹の方が全然可愛いでしょ。歳も同じぐらいじゃないの。〉って。先生もそれは間違いないと思って〈そうだね。〉答えたんだって。その会話がアイドルとスタッフには聞こえてたみたいだ。そして弥生さんはアイドルの横を通る時に〈従姉妹よりも私の方がずっと可愛いけどね。〉だって。するとアイドルのマネージャーが突然アイドルの所に駆け寄った。そのアイドルは顔を両手で押さえてしゃがみ込んでいたらしい。おそらく泣きだしたんだな。先生は一瞬引いてしまったみたいだけど、弥生さんが笑ったから人生薔薇色だったって。」
 宗久の話を聞いた由利は〈流石、弥生さん。〉とその時の光景が鮮明に浮かび、名前も知らないアイドルが可哀想になった。
「でもそれって先生が悪いんだよ。先生が最初に〈アイドルよりお前の方が可愛い。〉って言えば弥生さんは喜んだわよ。」
「そっか。」
 宗久のそっけない返事に〈あぁ、やっぱり。〉と由利はイラッとした 。同時に藤川弥生が内広舞を見たらどう思うんだろうと、もうありえない事まで考えてしまった。