人は気になる相手に自分の意思とは反対の行動をする事ある。内広舞は興梠修一郎が気になり始めると視線を逸らすようになった。
 修一郎も所詮はショップのスタッフとお客である以上はその関係を壊すことがないように必要最低限の会話に留めていた。

 そんなある日、修一郎はFUNKY foodのサービスカウンターで白ワインを注文した。修一郎が通っているスポーツジムのインストラクターが異動になったので餞別で渡すためだ。
 その日のサービスカウンターは内広舞が担当だった。修一郎はプリントアウトしたワインの画像に自分の携帯番号を書きサービスカウンターの前で取り出すと舞に話しかけた。

「ワインの注文をしたいんですけど、大丈夫ですか。」
  舞は形式通りに
「担当に確認してきますので少々お待ちください。」
 と答えた。お客とスタッフのごく当たり前の会話が続く。しばらくして担当者からの内線があり、舞は〈分かりました。〉と答えた。
「お客様、二~三日お時間をいただくことになりますがご注文なさいますか。」
 舞が言うと修一郎は
「お願いします。」
と答え、舞は
「それでは入荷したらお電話いたします。」
と言った。

 少し間を置いて修一郎が喋り始めた。
「このワイン、白なんですけど魚や鳥肉に合わせるワインじゃなくてスイーツやフルーツに合わせるワインなんです。僕の注文したグレードだとそのままワイン自体をデザートにするような方もいるんですよ。メチャ甘くて封を切ると蜂蜜の香りが漂う蓮花畑にいるような感じです。」
 舞は突然話しかけられてビックリした。視線を下に向け、
「お酒なのにですか。」
と言った。修一郎は自分でも驚くくらい次の言葉が簡単に出た。
「よろしければあなたにも差し上げますよ。」
 すると舞は
「えっ、えっ、えぇっ。」とすっとんきょうな大声を上げて首を激しく左右に振った。
 ちょっとパニクったような行動を取る舞を修一郎は可愛いと思った。