ラジオ番組『朝ラジ』こと『動の、朝はラジオだよ!』のディレクター木藤真帆とパーソナリティの延岡動は 〈好き好き企画〉の打ち合わせをしていた。赤川蘭子と棚神成実(たなかみ なみ)は用事があると言う事で参加していない。
 こういう日こそ延岡動にとっては好都合だ。興梠修一郎を貶めるアイデアを心ゆくまで真帆に話せる。
「動さん、ほどほどにしておかないと興梠先生以外の人間を巻き込んだら面倒なことになるわ。蘭ちゃんの〈興梠さんが好き〉ですら大変だったんだから。」
 真帆のその言葉を聞いた動は底意地悪そうな笑みを浮かべ、
「構わないよ。[物言う興梠]はピノキオのハンマーで叩き潰してやる。」
そう言った。
「あなたって本当に、ネクラで陰湿なのね。これ以上企画をややこしくしないでよ。」
「そうなったらディレクターの手腕の見せ時でしょう。祈祷師で魔法使いの木藤真帆さん。」
「あなたのファンタジー好きにも困ったものね。現実とファンタジーの区別がつかないと 大変なことになるわ。」
「物言う興梠だってラジオの言葉と現実と区別できない馬鹿小説家じゃないですか。」
「興梠先生は事実確認しているわ。興梠先生の投稿は読んでいるでしょう。確認できているのは〈舞々が手を握った〉〈耳元で囁いた〉〈電話番号を書いたメモがあった〉だけよ。」
「とにかく、これでも舞ちゃんを無視したら番組で〈残酷な男のテーゼ〉って特集を組みましょう。」
 延岡動は愉快でしょうがないという顔をしている。