内広舞は売り場からバックルームに下がり休憩室の椅子に座ると涙を堪えきれなくなった。
 友人の赤川蘭子が出演しているラジオ番組のディレクター木藤真帆と共演のパーソナリティー延岡動が企画だと言って話を持ちかけてきたのは1ヶ月ほど前の事である。

 〈好き好き企画〉と呼ばれるモノだった。 レジ打ちする際に自分を意識しているお客さんを一人選び、事前に頻繁に声を掛けしたり 自分のレジに誘導したりする。相手が嫌悪感を示さなければレジで手を握りしめると言う 企画だ。
 そして最後はそのお客さんに手渡しで電話番号のメモを渡すか車のワイパーにメモを挟んで電話が掛かってくれば企画はゴールインというモノだった。もちろん携帯番号は延岡動の番号にする。

 面白そうだけではあったが舞には迷いがあった。真面目な人だったらどうしよう。好きだと勘違いされたらどうやって断ろうかと考えた。
 この事を赤川蘭子に相談した。蘭子も少し戸惑ってはいたが、
「その時はなるべく早く手を引いた方がいいわよ。」
と言った。