「私は先生が弥生さんを今でも好きで忘れてないってのは嬉しいんです。でも弥生さんはもういません。他の女の人の前では、特に先生が気に掛けている女の人の前では弥生さんを忘れてください。女ってそう言うのに敏感なんです。楽しそうな笑顔の理由(わけ)が自分以外の人だって分かったら拒絶反応を示します。」
「 由利ちゃん、結構今日は言ってくるね。でも続けて。」
 内広舞の涙が気になっている修一郎はそう言った。

「内広さんの涙目を見て彼女が可哀想になりました。はっきり言いますけど先生が弥生さんのことを話す時、私は宗久と付き合ってて熱愛中だったのに先生に嫉妬しました。宗久が私を好きなのと先生が弥生さんを好きなのとどっちが上だろうって思ったんです。そのくらい先生は楽しそうに弥生さんのことを話すんです。もし内広さんが先生のことを気に掛けていたら内広さん可哀想です。私、女として今の先生は許せません。」
「そこまで言う。」
「当然です。恋愛中は他の女の人の話をしないなんて常識じゃないですか。無神経を超えてます。だから弥生さんが〈デリカシーの欠片もない。〉何て言うんです。そうじゃなくてもプライベートで女の人と二人なら必要以上に他の女の人を話題作にしないのは礼儀じゃないですか。そんなのも分からないんですか。」
 弥生の最期を一人で看取った由利は今まで心に仕舞っておいたものを全て吐き出した。 相手は修一郎以外に考えられなかった。
 
「僕は自分で弥生を心の中から消すことはできない。でも内広さんなら会う時間が長くなれば、会って話をすることができれば弥生を心の中から押し出してくれると信じている。弥生はそうやって紀惠(きえ)を追い出してくれた。」
「先生、わがまま過ぎます。自分の心の中をきちんと整理してから内広さんと向き合ってください。」
「今の僕たちの会話は小説のネタになるかな。どう思いますか校閲さん。」
「ふざけないでください。どこまで馬鹿なんですか。」
 由利は煮え切らない修一郎に怒鳴るような口調で言った。