修一郎と由利は企画中の小説をどうするかで、そのための打ち合わせする場所を探していた。
 打ち合わせといっても簡単なもので印刷した原稿を読みながらここはどうしたら良いかと話し合い、男性目線と女性目線の比較対比で心理描写をどうするか登場人物の反応を[男ならあぁだ][女ならこうだ]と意見を出し合う程度だ。
 場所は港や景色の良い海辺、渓谷ならキャンプ場の駐車場が殆どである。

「〈オジサンをからかってないよね。〉って言ったら涙目になったんだ。」
 少し前、由利が修一郎に 尋ねた返事が突然返ってきた。
「 それ、ヒド過ぎます。内広さんが善意で行動していたり、先生に好意を持っていたら心はボロボロです。」
 由利は運転中の修一郎に言った。
「先生が内広さんを意識しているのはよく分かります。でもそれだったら弥生さんのことは思い出さない方がいいと思います。先生が弥生さんを心の中に留めているかぎりは内広さんじゃなくても恋は実りません。てか、 女の人と恋愛はできません。」
「由利ちゃん、今日は随分ひどいこと言うな。これでも僕は傷ついているんだ。優しい言葉を掛けるとか適切な助言をするとかはないの。」
「校正校閲は厳しくやります。」
 由利は話をすり替えた。修一郎が内広舞の事で悩んでいるのは解っている。今の由利には自分が思った事や感じた事をはっきりと告げるしかなかった。
 レジで涙ぐんでいた内広舞とその後修一郎が楽しそうに五月と喋った光景が由利にとって〈心の比喩〉そのものだった。

 由利にしてみれば弥生の事は忘れて欲しくない。一方で修一郎に新しい彼女か女性の友人ができるのを望んでいる。