日下部を見据え、そう思った瞬間にダムが決壊し、抑え込んでいた涙が我慢していた分流れ落ちた。
忘れたいなんて思ったからだ。
忘れたくもないのに忘れたいと本気の嘘をついたから、だから怒ったのだ。
小さいと思っていたやよいの恋心は、自分でも思っていなかったほど大きくなってしまっていた。

「なに?見てて楽しい?」

すっかり泣き虫の声に自分で呆れる。

「気分はいいね」

自分のせいで泣いているというのに、恨まれても仕方ないほど睨まれてるというのに、自然の光を受けて光るやよいの瞳から目が逸らせなかった。
気分がいい、は正確ではないが、それ以外に言いようがなかった。
まだ自分に気持ちが残っている事が、嬉しかった。
最低だと分かっているのに、どうしてもやよいを揺さぶることを止められなかった。
やよいが自分から目を逸らさない限りは。

「ゲスいわ…」

怨み節に近いやよいの毒に「知ってる」と答える。
それは日下部が一番分かっている。
腰を浮かせた日下部がやよいとの距離をまた縮めた。
反射で後ろへ逃げようとするやよいの手首を、逃がさないとばかりに自分側へ引く。

痛くないのが癪に障る。

「園村さんも気分いいでしょ?」

は?
何がや。
自分とキスできて光栄ですと思えと??

どこまで無神経俺様かと、盛大な引きさえ感じた。
心の中で呟いていた言葉は声にでていたらしく、やよいの耳にもはっきり聞こえた。
もちろん日下部にも。
「そうじゃなくて」と返ってくる。

「さっき、コクられてたし」

ぎょっとなって、指がぴくついた。