やよいの目が見開かれる。
何が起こったのか整理できない。
自分の物ではない唇の感触はするのに、キスされている感覚まで全く追い付けなかった。

ほんの短い数秒、
たったそれだけ、ゼロ距離だった日下部が離れていく。
目を見つめたま、突き飛ばすでもなくただ日下部を見つめ、今さらながらに日下部の口元を両手で覆った。

「あ、ああほちゃう!?自分!!」

やよいの手首を優しく掴み、日下部が喉で笑ってそこから離す。
どこまでもまっすぐ自分を見つめてくるやよいの瞳が、逃げない彼女が意地らしかった。

「園村さん、声大きいから」

はっとなって口を閉じる。
隠したくても、両手は日下部に掴まれたままだ。

「なんなんっ?なにがしたいん!?ばかにしてんの!?なんでっ、私の事ふったくせに、ふった相手にこんなんっ、気ぃもたせんないうたやんっ、それともまだ私が好きやと思ってええ気分になってんの!?まだ好きでおれって??忘れさしてもくれへんの!?」

腹が立っているのに、泣きそうなほど腹がたって悲しいのに、感情も声量もセーブして示さなければならないのが辛い。
二度と気持ちをさらけ出したくない、跳ね返るだけの気持ちをあげないと決めたのに。

「そっちには全くそんな意味なくてもこっちは、こっちはっ…っ」

止めどなく溢れてくるのは日下部への好きだという気持ちだけだった。

目頭が熱い。
気を抜けば根こそぎ流してしまいそうに、パンパンに膨らんでいるのが自分でも分かった。
せめてもの抵抗を掴まれた両手に込めてぶんぶん振り回すが、優しく拘束しているはずの日下部の力には敵わない。

なんでこんな目に遭わなあかんの…。
押し付けられても困るて、付き合わんて言うたやん…。
もう忘れたい…。