普段の何気ないことなら出来る。
自分らしくある自分が好きだから、自分らしくは自分の誇りでありたいと後悔しない毎日にしたくて努力していくのに。
こんなにうまく行かないものなのか、恋とは。
片想いが片想いのまま自由なときは、こんなに打ち砕かれることがあるなど思いもしなかった。
情けなか惨めさか何なのか、自分でも考えるのが嫌になってきて、思わず笑ってしまった。

「そやね…」

文句の一つも言ってやりたかったのに、そんな気力はどこにも残っていなくて、それよりも頭が完全に回らなかった。
せめて逃げたくなくて、日下部の目をしっかり捉えたまま「悪かったね」と付け足す。

挑戦的、
いや、違うな。
じゃあ何だ?

なぜこいつは、こんなにも向かい合ってくるんだろうか。
その疑問しか浮かんでこない。
自分の周りのどの女性とも似ても似つかない態度。
頬は紅潮し、なにかと戦うように瞳は潤み、唇を噛み締めているのは明らかな動揺の現れのはずなのに。
違うのは逃げずにいること。
日下部の知る女性たちならとっくにそこのドアから逃げ出している。

だからだろうか、その瞳がいったい何を意味して自分を見ているのか確かめたくなるのは。
結局、視線を外したのは日下部だった。
またしても。

「とにかくもうほんま、私一人でやるから、何でもえぇから帰って」

「またそんな効率の悪いことを。いいってもう」

日下部も床に膝を付き、散らばるプリントをかき集めていく。
そんなに嫌なら俺に押し付けて逃げればいいのに…、と、意地悪なことを思いながら。