気ぃ持たせんなて、言うたのに。

唇を噛み、日下部の高い背中を睨んだ。

日下部と目が合い、お互いに見つめ合ったといっても過言ではない出来事ですっかり調子を崩してしまったやよいではあったが、やらなければいけない作業に救われて必要以上に意識せずに済んでいた。
全てコピーし終わり、一部ずつまとめて綴じる作業に移行していた。
大きな机の上には十を越える束が並んでいて、一から順に取っていく。
うっかりすればぶつかるかもしれない近い距離で、二人並んで、機械的な動きで雑念を振り払って、一枚、一枚、

一枚掴んで、

一枚掴んで、

触れないようにあえて速度を緩めて、日下部と重ならないよう慎重に。
なのに、

ちょっと、
やめぇや。

こちらの動きに反して、というよりは、どんなに日下部の動きに合わせて用紙を取ろうとしてもニアミスしてしまう。
明らかに狙った動きで、どれだけ鈍くても絶対に気付くほどに指と指の位置が近い。
止まるのだ。
日下部の手が別の山へ向かうのを確認した後、やよいが手を伸ばすとそこでピタリと止める。
自意識過剰ではなく、明らかに。
ボーッとしていたら毎回ぶつかるくらいには。
注意を払って日下部を見ているから途中で手を止められるものの、それもどこまで通用するか分からない。
時には引き抜こうとするのを邪魔する形で、日下部がそこを指先でブロックすることもある。
何かの嫌がらせとしか考えられない。