「あかんっ、あかんで私!そんなん言うたかてっ、そりゃ日下部くん男前やけどっ、あかんっ、これは私の母国語や!!それをバカにされたんやでっ、アイデンティティの問題や!アイデンティティの正しい定義なんぞ知らんけどっ、なんで母国語バカにされなあかんねん!同じ日本人やろ!おんなじやろーっ!!!関西弁は関西人の母国語じゃーーーぃっ!!!」

男前をどうしても排除しきれず、そこにもまたむしゃくしゃしながら感情のままに叫んだやよいは、地団駄を踏みながら両手を振り回した。

のが、

よくなかった。

「あっ、あかんっ」

少し小柄なやよいの手には余ってしまう購入三年目のスマホが勢いよくすっぽぬけ、見事に放物線を描いき───────

「ラッキーなんかなんなんか分からんけど、草むら着地!?」

深い茂みに落下した。

なんてツキの薄い日なのか…。
違うな、ツキとはまた違うな。

そんな心痛にまたじんわりくる目元を押さえ、慌てて土手を駆け下りた。
石などの硬いものにぶつけていませんようにと祈る。
落下した地点に視線を集中させ、血眼に近い目をかっぴらく。
何かの光に反射したような光が見え、間違いなくスマホだと確信したやよいがさらに足を早めた。

「ひゃっ」

急ぎすぎて足元が疎かになった瞬間、見事に生い茂った草花に足をとられてしまった。
転げ落ちるのを何とか持ちこたえたが、その分加速する脚の運びの制御が怪しくなり、意思とは関係なく速度が上がる。