自分にもし彼氏が出来たらこうなるのかと想像したことはあるものの、万智みたいにしている自分の姿はどうにも思い浮かべることができず、きっと人種も遺伝子も違うのだとしていた。
だが、羨ましいなと思うことはここ最近増えていた。
特に、自分の恋が終わりを迎えた後は強く感じる瞬間がある。
思い出したくもないのに、不意に予測できないところでこうやって記憶に触れられると強引に頭をもたげるのだ。

あー、いややいやや。

小さく頭を振ってこめかみを押さえると、嫌な気分を払拭するように呼吸する。

「やよい?大丈夫?」

その様子を見ていた万智が心配そうに声をかけてきて、はっとなって顔を上げた。
いつの間にかバグのしあいっこは終わっていて、後一人を待つのみとなっていた。

「大丈夫、ありがとう」

「やっぱりまだ辛いよね…」

万智が言っているのはもちろん例の件。
白黒つければスッキリすると思っていたのに、逆に沈めることの方が難しくなってしまった。
こんなことになるなら告白なんてしなければと思うことは不思議と無いけれど、だからといって晴れやかな気持ちになれることもない。
叶わないと分かっている気持ちがいつまでも自分の中にあるというのは、片想いより辛い試練だと感じていた。

「いやぁ、まぁ、楽やないけど仕方ないよ」

「何かあったら言ってね?辛いときは私絶対そばにいるからねっ」

誰にも聞こえないよう小さな声だが、思いが強いことは表情から見て取れる。
そしてそれは社交辞令ではなく、本気であることも。
フられて帰った日、結果を報告しようと電話をしたのだが、果たしてどこまで話そうかと思案していたら、うっかり飲んでいたお茶を気管に入れてしまって派手にムセてしまった。
それを泣きすぎて気管がどうにかなったのだと勘違いした万智が、今から行くと騒ぎ始めたのだ。
ただただムセているだけだと説明したくても止めどなく出てくる咳が邪魔して伝えられず、あやうく万智を本当に家に来させてしまう事態になるところだった。
何とか咳を抑えてぜぇぜえしながら説明したけれど、それでも説得に時間がかかってしまった。

「夕方以降はあかんで?」

意地悪に笑ってそう言うと、万智も気恥ずかしそうに「りょうかいっ」と微笑んだ。