別れた元彼女。
両親が、家族と自分を捨ててまで狂ったその感情がどんなものだったのか、知りたくてたまらなかった。
周りが見えなくなるほどのめり込めるその想いと衝動が、自分にもあるのかどうか。
それを確かめたくなった。

「でも結果はこの通り、何も得られずただ傷つけただけ。あいつらと変わらなかった。俺は一人だった」

思いは実らず。
残ったのは彼女への贖罪と、拭いきれない罪悪感。
日下部の取った行動がやよいに理解できるはずもなく、ただ、なにかを知りたいと願う気持ちだけは汲み取れた。
自分がその立場になって同じことをするかと問われれば、答えに苦しむ。
しかし、そのものがどんなものだったのかを確かめようとはするだろう。
自分の置かれた状況を理解するためにも、また、なにが狂わせたのかを明確にするためにも。

“恋愛なんてくだらない”というのがどういう経緯で導き出された答えなのか、理解できた。
なんて声をかけていいか分からず、だからといって‘辛かったね’、や、‘仕方なかったよ’なんていい加減にもしたくなかった。
そんなものなんの役にも立たない。
日下部は望まない。
躊躇いながらも手を伸ばしたやよいは、冷たい日下部の手を握りしめた。
日下部の指がぴくんと跳ねる。


「私はおるよ」

口にして後悔した。
そんなことではない。 
こんな付け焼き刃な、同情でしかない言葉など日下部をかえって傷付ける事になるのに。
なんて無力で無能なんだと、自分を殺してやりたくなったとき、日下部の手がやよいの手を握り返した。
鼓動が軋んで、日下部を見る。

「知ってる」

イヤミでもなく、話をあわせただけでもなく、そこには本当にそうあって欲しいと言わんばかりの日下部がいた。