｢だからって別に、父親からもあんな扱いされてるわけじゃないよ？多分普通の父と子ってくらいだから。それに弟ともギスギスしてないんで、そこ早合点しないように｣

実は真っ先にそういう想像をしていた。
日下部の話からは、家族の愛情を深く感じられなかったから。
母親だけが日下部を敵視しているだけのようだ。
彼女が言い放った言葉のまんま、と言ったところか。
やよいからしたら信じられない。
まず最初に、家庭を壊されてしまったのは日下部の方だ。
不倫だろうが浮気だろうが、双方どのような理由があったにせよ、一つの家庭を壊してしまう可能性を頭に入れずに突っ走った行動ではない。
分かって壊したのだ。
それに巻き込まれたのは日下部の方、子供の力ではどうにもできない状況におかれた上に、引き取ってやったなどと恩を着せられても、被害者からすれば当然の事だろうとしか言えない。

日下部は被害者だ。
まだ子供だ。
哀れな大人の哀れな恋愛ごっこに巻き込まれた、不運な子供。
誰も守ってくれず、気付けは両親がいなくなっていた。
引き取られた場所では、まるで諸悪の根元とも言える扱い。

｢ちょうど受験のシーズンで、ボロボロだったよ。本当は別の学校狙ってたんだけど成績も落ちちゃって、今の高校も受からないかもしれないってくらいまでね｣

日下部が言っているのは県下ナンバーワンの進学校だろう。
ずば抜けて成績のいい日下部が、なぜ今の高校に通っているのか不思議だったが、今の話を聞いて納得いった。
強く自分を持って凛々しいなんて、こちら側が抱いた勝手な希望ととんだ思い込みだ。