勝手に敷地内に入る事、口ぶりからこの家の住人であることは分かる。
ポジションも、一つ。
しかし、さっきから違和感が強い。

「仕事では?」

他人行儀な日下部の語気と言葉使いがさらにそれを引き上げる。
どうして敬語なのだろう。

「早く終わったので帰ってみたら、どういうこと?聞いてないわよ?来客の話しなんか」

家を訪問されるのが嫌なのだろうか、目の前の女性からは客人に向けるには相応しくない嫌悪が漲っていた。
普通ならまずこんな態度は取らない。

「勝手なことをしてすみません。急だったもので」

畏まった、というより一線引いているといった方がいいだろうか、淡々と教科書を読み上げるときのそれ。

「勝手なところはお父さんそっくりね。もう少し自分の立場をわきまえたらどうなの?」

「そう言われても、ここは俺の家でもあるので少しは面倒をかけることもあります。何せ俺は、まだ子供ですし」

「子供が大人のように女を連れ込むの?」

視線が自分に向けられたのが分かる。
日下部がやよいに飛ばせた緊張感も重圧も、さっき元彼女がいたときよりずっと肌がピリピリしていた。
だんだん傾いてきた太陽光線より、ずっとずっと。

「変な言い方をしないでください。彼女はあなたが思っているような人ではありません」

知らない人のようで、日下部が遠い。
母親に違いないこの女性との関係性はどうあれ、日下部がここまで自分というものを隠した姿は見たことがなかった。