未だに日下部との関係は分からないが、それならそれで縁も切りやすい。
離れたところで関係に名前がないことが救いだ。

だが、日下部からは先ほどまで纏っていた拒絶や負を一切感じない。
ただ、何か、物悲しいような、切ないような。
瞳が揺れているのだ。
揺らいで、揺らいだ中にやよいが映っている。
自嘲気味に微笑んだ日下部が、「園村さん」と呼ぶ。

「彼女とはもう……違う、な、最初から無かった、彼女とは恋愛なんて…少なくとも俺には何も、なかった」

最初から?

にわかに信じられない。
あの日見た日下部の瞳には確かに優しさを感じた。
何も感じていなかった人に対して向けるとは、とても思えないある種の情のようなものが混ざっていた。
向けられなかった自分と比べれば一目瞭然だ。
そのある種の情が、恋愛ではなくただの人としての情、ということだったのだろうか。

「さっき言った通り、責任だと思ったんだ。恋愛感情がないまま付き合ってしまった事への贖罪?みたいな。好きになる努力をしなければ、誠意で返さなければと思ったけど、その時点で無理だよね。努力してどうにかなるものでもないのに、誰かを好きになるなんて、気付けばなってるものなのに…最低だね」

確かに、誉められたことではない。
誠意と言っているが、それは誠意ではない。
誠意があれば、最初からそんな選択はしていないはずだ。
合理的な考えで動き、無駄で無意味なことに反応しない日下部を知っているものからすれば、何故そんなことをしたのか不思議でならない。
まるで合点がいかなかった。