日下部の言うことが尤もなだけに、第三者で関係の無い自分でもごめんなさいと言ってしまいそうになる。
その分何をくれるの?────
見返りを求める前提は、もう恋ではない。

「こうやって押し掛けられるのも好きじゃない。家の人間と鉢合わせしたらどうなるか、考えてくれなかったのかな。今誰かが帰ってきてこの状況を見たらどう思う?完全に俺が泣かせてるよね、不可抗力に近いのに。それは考えてくれた?好きになれないのに好きになってって圧をかけるのは心への暴力だよ…。俺は俺なりの誠意で返した。それが気に入らないのは君の問題で、俺にはもうどうすることも出来ない」

声が時々掠れて、苛立ちとも怒りとも違う感情の波を感じた。
事実でもきつい言い方、それが日下部にも分かっているからなのか、腕を掴む手に力がこもる。
痛いとまではいかないけれど、逃げられない強さは感じた。
俺にはどうすることも出来ない───
それは切実で、変えられないこれからのこと。

私はどうやった?

好きになれない相手からの、好きになって欲しい欲は、私からも感じただろうか…。
それなら心労をかけたかもしれなくて…。
答えを問いかけるように、日下部の広い背中を見つめた。
すると手首を掴んでいた指が下へと下がり、優しくやよいの手のひらを包んだ。
跳ねたやよいの指先まで、日下部の手のひらに捕えられる。

「自分の思いばかりをぶつけるのは、それは、もう恋じゃなくて、意地だよね…。そんな人に俺の優しさはやれないよ」

最後は優しい、優しいトーン。
まるで諭すような、もうこんな事に意味はないのだと言い聞かせるような…そんな、胸に響く声。