きっとこれが本気、本音。
素直で大変よろしいが、それ以外の言葉が出てこなかった。

「尚ちゃん、もう、ほんと、黙って…」

彼女である万智も頭を抱え、唸ったまま顔を上げることが出来ないでいる。
こういう人っているんだなと、その発言のせいで巻き込まれたやよいも、ここまで来てしまったらある種の関心さえ覚えていた。

「なんか、遅くね?」

再び勉強に戻った尚太が、ふと疑問をあげる。
言われてみれば、遅い。
席を外してどれくらい経ったか、宅配の類いをゆうに越える時間が経過しても日下部はまだ戻って来ていなかった。

「怒って出てったのかな」

自分の失言が気になるらしく、しょぼくれと一緒に不安も混ざっていた。
だがそれはあり得ないだろう。
ここは日下部の家で、彼が出ていくのは考えにくい。
もし怒ってしまったのなら、客の方を帰すはずだ。
いつものように手厳しく、バッサリと。
それに気分を害したと言っても、呼び鈴が鳴るまでの間も結構な時間が経過していたため、今さらといった感じである。

「ちょっと様子見てくる」

遊びに来ることが多いのか、勝手知ったるとばかりにベランダへ出た尚太がこっそり外の様子を窺った。
なぜにベランダ?と思う間も無くすぐ、口を押さえて戻ってきた。

「なんか前の彼女が来てる」

やよいの頭が検索に走る。
すぐに、あの彼女だと結果が出された。
耳を疑った。
そんな何の連絡もなく来れるような間柄だったのだろうか。
少なくとも今日は予定には入れていないはずだ。
来ると分かっていたら予定など入れないし、日下部が今日の予定と重ねて前の彼女と会うことなど考えにくい。
逆も然り。