“恋愛なんてほんとくだらない”

本心としか思えない声のトーン。
苦々しい恋愛の、やよいが偶然見かけ、この恋が始まるきっかけともなった日下部にとってのおしまいは、そんなにも心を痛める経験だったのだろうか。
誰も入り込める余地を与えないほども。

「でも前いたじゃん」

尚太にとってはほんの軽い世間話なのだろうか。
もう誰もこの話をしたくないのに、否応なしに会話が広がっていく。

「いたけど、恋愛なんて呼べる代物じゃなかったし、俺には向いてなかった」

心なしか、意識が自分に向いている気がした。
好きになっても仕方ないよ、と。
もうやめなよ…と。
最後通達が送られた気がして、耳の奥の方が激しく痛んだ。
川原で遊んださっきはあんなにも楽しくて、あんなにも近くに感じられたのに。
今はひどく遠い。

「もうこの話いいよね。君たちはいったい何しに来たのかな」

引き出しから勉強道具を取り出し、机の上に広げた日下部が収集のつけがたい空気を無理矢理払いやった。

本当に、もうよかった。
こんなに負の感情を背負った日下部の顔を、もう見たくはなかった。
これ以上、自分も傷付きたくなかった。

アホ尚太。
 
三度目の失恋は、思った以上のダメージだった。

「そうだね、始めよ?やよいごめんね、暑かったよね」

どうして日下部が迎えに来たのか、どうして自分達が待ち合わせに行かなかったのか、その説明の機会も掴み返せない万智はもう取り合えず取り繕うしかなかった。

「尚ちゃんほんと、もうなんにも言わないで」

心底腹を立てた万智が尚太に釘を刺す。
万智の目は僅かに涙で潤んでいて、隣に腰を下ろしていたやよいの手を強く握りしめていた。