尚太以外の誰もが、突風として訪れた嫌な空気に顔をひきつらせる。

なんであんたはいっつもそんな。
いきなりぶっこんだこと訊くん?
なぁ、まずそこから教えてぇや。

尚太を見やり、睨んだのはやよいではなく万智だった。
なんて事ぶっ込むの、そんな顔をしている。
せっかく二人になれる時間もつくって、これからってときに、みたいな、そんな口パクがかえって痛い。
この話題は自分にとっての大ダメージであることは間違いなく、もしかしたら三度目の失恋もある流れだ。
お待たせ~とか言ってももう、分断出来るものでないことくらいはやよいでも分かった。
ワンチャン、日下部が何も言わず取り合わなければと願うしかない。
横目でひっそり日下部に視線をやる。

向けた視線の先、一瞬見えた日下部の表情にやよいの呼吸が止まった。
日下部の瞳には嫌悪が浮かんでいて、それは見たことがないくらい暗い闇、どす黒く濁った色。
しかしそれは一瞬の事で、すぐにいつもの日下部に戻った。

「そういう意味なら、困らないね。でも恋愛なんてほんと、くだらないよ。仲良しの二人には申し訳ないけど、継続しないものに興味はない」

勉強机の椅子に座り、長い足を組んだ日下部が誰に気遣うこと無く持論を提示した。