草むらをかけ分けて手を伸ばした先にあったのは、裏向きになって仄かに光を放つ白っぽいスマホ。

「ほらっ、これ!これ私のスマホ!みつかったぁぁ、よかったぁ、怪我もしてへんし無事やぁぁぁ」

胸元に抱き寄せて、子供をあやすように体を揺する。
その屈託の無い笑顔は周りが明るくなくてもはっきり分かるくらいに…、
はっとなって口元を押さえる。

え、俺今、なにを言おうとした?

やよいを見つめ、緩いカーブで広角を上げ、うっかり声にしてしまうところだった自分に問いかけた。
言ってはいけないわけではない。
考えてもいけないことではないけれど、後ろめたさにセーブをかけてしまった。

「無事に見つかってなにより」

「あっ、ほんまにごめんっ。遅なったね。お腹空いたん…」

違う?を盛大なお腹の音が割り込んでかき消した。
一泊置いて、日下部が吹き出す。
それはそれは盛大に。
そしてたまりかねて豪快に笑う。

そんなふうに笑うんやぁ。

白い歯だって見えるくらいに口を開けて無防備に笑う日下部が眩しくて、どの一瞬も逃したくない一心で表情を追いかけた。

「すっごい腹の音」

ひとしきり笑い、落ち着いた辺りで笑いの原因を評価。

「あははは、鳴ってしまった」

スマホを持った手でお腹をさすり、一昔前の芸人さんがやるように額をピシッと叩いたやよいがみっともないと苦笑する。

「隠しも恥ずかしがりもせず」

「恥ずかしいけどまぁもう今さらやし。さんざんカッコ悪いとこ見られたからお腹の音くらいなんてないっていうか」

潔いというか、なんと言うか。
清々しすぎる姿が女性という枠を越えて光っている印象を受ける。