尚太と万智は繋いでいた手を慌てて離し、「ごめんごめん」と苦笑い。
そういえば、いちゃつくなと言われていた。

「てか、一人足りなくない。なんで二人?園村さんは?」

二人を認めて、後ろにも目をやるが、後一人足りない。
この時点で、日下部に嫌な予感が走った。
なにかを仕組まれ、そして試されていることは明らかである。
万智の目が策士に光った。
こんなことは、お目当ての服がバーゲン対象になるときくらいで、ただ事ではない雰囲気に尚太は生唾を飲み込んだ。

「待ち合わせてるのすっかり忘れちゃって。悪いんだけど迎えにいったげてくれないかなぁ。外暑くてもう戻れない」

可愛い彼女の嘘に、尚太も笑って付き合う。
何も口を出すなと言われている尚太は、黙って言われた通りに愛想を作る。
その笑顔がまた日下部には嘘臭く、尚太は策には向かないなと思った。
自分が何か企むときは尚太を外そう、とも。

「…わかった。まったく…いい加減だね」

地を這う深い溜め息が日下部から漏れる。
万智の魂胆などお見通し。
透けて見えていた。
日下部とやよいを二人きりにしたいという、そういう企み。
友達思いな女性が考え付きそうな、恋愛事が好きそうな企みに微笑ましくもあった。

まったく悪くない。

それくらいなら踊らされてやってもいい。

「ごめんねぇ、場所はこの道戻ったところの土手だから」

「了解。家誰もいないから上がって待ってて?部屋は尚太が知ってるから」

指示だけ素早くすると、玄関のフックにかかった鍵を持って家を出た。
二人はいってらっしゃいと手を振り、日下部を見送る。

まったくあの二人は…。