「けどむっちゃ気ぃ持たせんねん。何なんやろな。何がしたいんやろな。ほんま腹立つ。腹立つけど、嬉しいねん。一緒にいられることが、幸せで仕方ないねん。まだ好きでおってもいいて言われてるみたいで。だから好きやねん、何回フラれても」

都合の言い解釈が自分で言ってて可笑しい。
けれどもう、笑えない。

「ちょっと、ちょっとだけ、手放しても…えぇ、かな…疲れた分だけ、ちょっとだけ…」

少し、疲れた。
好きであり続ける事の辛さは分かっていた。
ただ、こんなにえぐられるとは思ってもみなかった。
水をぶちまけられたとか、そういうことではない。
そんなものは取るに足らないこと。
誰かの想いが誰かに届き、その奇跡的数字に微笑まれた人が羨ましかった。
諦めるわけではない、捨てるわけでもない。
ただ少しだけ、荷を軽くしたかっただけ。

涙の粒が耳の中へ入ってくる。
体温に近い雫が気持ち悪い。

ひっくひっくする喉がこんな時でも可笑しくて、悲しいのか何なんだかわからない。
普段は使わないエネルギーの消耗にすっかり力を無くしたやよいは、誘いをかける眠気に抗うこと無く身を委ねた。

寝息が届く。
カーテンの向こう、荷物を持った日下部が薄い布を開こうかどうしようか逡巡していた。
声をかけようか、それともこのまま荷物だけ置いて部屋を出ようか。
黙ってこっそり聞いているつもりなどはなかった。
やよいの本心を、誰もいないから吐き出せた叫びのような心の音を、こんな卑怯な形で盗もうなど考えてもいなかった。