でなければやよいの担任に会いたいだけ、とか…。
まさか。

「生乾き気持ち悪い」

ベッドをぐるり囲む形で設置されたカーテンを引き、着替えを置く。
シャツに手を乗せるとやや湿っていて、体温も含んでいるせいかムンとしていた。

「あ、やっぱりでっかいわ」

通した袖は肘を越えていて、オーバーサイズのおしゃれでは到底カバーできない。
ハーフパンツもまたブカブカなため、歩いて帰るとなると落下が心配なほどだ。
できる限り紐でウエストを絞ったが、やや不安が残る。
しかし下着までは濡れていなかったので、これは不幸中の幸いだった。
濡れた服を乱雑にまとめ、枕元へ放ったやよいがベッドへ寝転んだ。
ふわりと香る保健室の匂いと、固めのシーツ。
業務用的なあつらいのスプリングが軋んだ。
学校のものか、借りた生徒が洗った柔軟剤のものか、とにかく慣れない香りが居心地悪い。

横になったやよいはぼんやり重くて痛い目を瞑り、そこをまた両手で隠した。
1日運動していたときよりずっと疲れて、嫌な疲労感が残っている。
たった数十分の出来事だったのに、全身が休みたいと悲鳴を上げていた。
いや、心の方か…。

緩んだ蛇口から漏れる水滴が、嫌な記憶を呼び覚ます。
今は水の音など聞きたくもなかった。

なんでこんな目に…。

ここに来るまでに何度も自問自答した疑問。
日下部を想っているのがいけなかったのか

何故、日下部への想いまでバカにされなければならないのか。
これはやよいだけが感じられる想いで、やよいだけがその気持ちを評価できるもの。
他人がどうこうできるものでもなければ、土足で踏み荒らしていいものなどではない。
なのに、彼女達はいとも簡単にそれらをやってのけた。
それが不甲斐なくてならない。
何故あのとき言い返さなかったのか、何故あのときこの想いを守ってやらなかったのか…。
自分だけのものだと豪語しているくせに、肝心なところで助けてやれなかった。