夏織のアドバイス通り、子供向けの歴史資料を作ってみたらこれが本当に面白くって、どんどん製作した。

特徴のない私だけど、絵だけはそこそこ得意だったので、それもよかった。

クオリティはそこそこの物ができたんじゃないでしょうか?

ってことで、早速詩乃に見てもらったんだけど、思ったより評価してくれた。

『これはすごいな!これだけのものが作れるなら、どんどんやったほうがいい!』

って沢山褒めてくれた。ありがとね。

そうやって作っていたらあっという間に10枚くらいできたんだけど、そのタイミングで、詩乃に提案された。

それは、資料ができたら教授に見せて評価をもらったらどうか、というものだった。

確かに…今は資料を作ることが楽しいし、勢いがあるけど、ずっと続くわけじゃないし…。

教授に見てもらえれば、アドバイスをもらえるかもしれないし、おすすめの題材なんかも教えてもらえるかも!って思ったら良いことばっかりだ!

ってことで、せっかくだから詩乃のアドバイス通り教授に見てもらえないか聞いてみることにした。

その時真っ先に私の脳裏に浮かんだのは、歴史教育概論っていう、授業を受け持っている高畑先生。

45歳くらいの男の先生なんだけど、おしゃべりがとっても面白くて、私が一番楽しみにしている授業を担当している先生。

授業の後、教室を出て教員室に向かう先生を呼び止めた。

「先生!」

『ん?あぁ、君は、確か山本さん。何か質問かい?』

「あ、いえ、今日は、ちょっとお願いがありまして…。」

『えぇ?何か厄介なことかい?』

先生が露骨に嫌そうな顔を作って見せた。そう、飽くまで作り顔。本心ではないみたい。

「実は、私、今こんな資料を作っているんですが、ちょっと見てもらえませんか?」

先生は、私が差し出した資料を丁寧に受け取って下さった。

『おお!これはすごい!!山本さんは、こんなものを作ってるのか!これ、ちょっとゆっくり見たいんだけど、教員室まで一緒にきてくれるかい?』

え?ちょっと本気ですか先生!




『さてさて、じゃぁ改めて、見させてもらうね。』

先生はそう言って私の資料を読み始めた。

読んでる間も、先生はずっと、なるほど、とかうーんとか独り言を言ってた。

『はい、ありがとう!すごいね!こんなレベルの資料を手書きで作れるなんて、すごい意欲だよ!正直感動した。君みたいに熱心な学生は、今じゃ珍しいよ。いやぁ嬉しいなぁ。』

先生は本当に感心してくれたみたいで、すごく嬉しそうだった。

『さて、じゃ肝心の資料についてなんだけど、まず、絵や字のクオリティは全く問題ない。だけど、そうだな、なんていうか、テーマが絞りきれてないように感じるかな。特に、人物についての資料だね。』

そう言って資料の中から織田信長についてまとめた物を取り出した。

『この一枚の中に織田信長のことを書こうと思ったら、基本的には全て大人になってからの行いだけに絞ったほうがいい。もし子供の頃からしっかり作るなら、3ページくらいにして、時代ごとにまとめた方が読みやすいと思うんだ。だから、今回みたいに1ページ済ませるなら基本は大人になってからのことにして、幼少期は豆知識として一言にまとめると、より見やすくなると思う。』

なるほど。確かに。テーマはなるべく絞ってきたつもりだけど、そう言われると絞りきれていなかったことがわかる。

『あ、でも、テーマが絞りきれてないってことは、それだけ深く調査して書きたいことがいっぱいあるってことなんだから、それはすごくいいことだよ!書き方さえ覚えれば、これを使って歴史教育概論の授業ができるくらいだ!』

いやいや、そこまでは…。でも嬉しいな。こんなに褒めてもらえると思わなかった。

「ありがとうございます。まだまだ作りかけの資料がいっぱいあるので、来週の授業の後も見ていただけませんか?」

図々しいかなって思ってけど、すごく嬉しそうに見て下さったので、思い切ってお願いしてみた。

『うん、いいよいいよ!見るよ!けど一個こちらからもお願いしていいかい?』

え?なんだろ?

「え?あ、はい。なんでしょうか?」

『もう少し資料を見させてもらったら、これを授業で紹介してもいいかい?こんなにやる気のある学生がいるっていうのを知ってほしいし、もしかしたら賛同して、一緒に活動したがる学生も出てくるかもしれないし。もし、迷惑でなければ。』

うーん、いいけど…ちょっと心配かも。

「先生、お気持ちはありがたいですが、その、なんというか、あまり自慢はしたくないので…」

『あぁ、それはもちろん大丈夫だよ。紹介すると言っても、授業の終わりにサラッとやるだけだし、これらをコピーして配ったりはしない。ちょっとプロジェクターに写すくらいはするかもしれないけど、変な意味で注目されないように配慮はするよ。』

そっか。それなら安心、かな?

先生がここまでいうんだし。

結果、私は了承した。



次の週、私は新たにできた資料を先生のところに持っていった。

『そうそう!このほうがずっと読みやすいと思うよ!この資料は、飽くまでも歴史に詳しくない子供たちが読む物だからね。このくらい情報を絞ってあげればスッと理解できると思う。しかしすごいな、君は、あのアドバイスだけでこんなに良くなったか!』

そして今回もありがたいアドバイスを下さった。

今回は主に、字の大きさや絵とのバランスだった。

なるほど!確かにこれが変わると全体的な印象もかなり変わってきそうだ。


結局3回先生に提出したところで、授業で紹介されることになった。

私への配慮は良くしてくださって、特に変な目立ち方をすることもなかった。

というのも、先生が紹介してくださったのは、飽くまでも資料であって、誰が書いたとは言わなかったから。

もし興味があったら先生を通して私に紹介してくださるみたい。

嬉しいな、そこまでしてもらえて。

でも、これが大きな結果につながることになった。



高畑先生の授業の後、いつものように先生から資料についてアドバイスをもらって教員室を出ると、メールが入っていた。

【食堂に由美といるから終わったらきてね!】

なんだろうと思った。別にメールなんてなくてもいつもなんとなく食堂で合流してるのに。

不思議に思いながら食堂に来ると

『あ、さぎり!こっちこっち!』

すっごい嬉しそうに手を振る祥子。

どうしたんだろ?

「ごめんね!お待たせ!」

『いやいやいやそんなことはどうでもいいの!さっきの高畑先生の授業のアレ、さぎりでしょ?』

あ、やっぱりバレてたw

祥子と由美は、私のノートとかも見てるし、絵も見たことあるから気づくだろうなって思ってた。

「うん、ごめんね、隠してたわけじゃないんだけど。」

『さぎり、祥子の顔見て見なよ。こんな嬉しそうな顔してるんだよ?何が言いたいかわからない?』

と由美。え?確かにすっごい嬉しそうだけど

『さぎり、よかったね!やりたいこと見つかったんだね!』

そういうことか…。そうだ、私、この2人にはすっごい心配かけちゃって

「あ、うん。ごめんね、2人には心配かけちゃってたのに、ちゃんと言わなきゃって思ってたんだけど、なんていうか、まだ1人で勝手にやってるだけだしっておもっ…」



祥子が右手を上げている。

??

『1人で勝手にじゃなくてさ、もうちょっと具体的な目的を持った活動にしない?それ!』

え?

「それって、どういう」

これには由美が答えた。

『サークルにしよってことだよ。入りたいサークルがないなら自分で作ろうって、そういうこと。』

いやそれってすごいことなんじゃ…。でも、すっごい面白そう。

『私、あの資料見てすごい感動しちゃってさ。3人で一緒に始めない?』

と祥子

え…いいの?

『あ、言っておくけど、私は絵は描けないから、できることなんて資料集めとかそんなのばっかりになっちゃうからね。後は、会計とか、かな。高校の部活でも会計係だったし。それでもよければ私も入れてよ。』

と、由美。

な…やばい、またうるっときた…

『ね?どう?面白そうじゃない?』

またそんなキラキラした目で…。

「ありがと。2人がそう言ってくれるならすっごい心強いよ!うん、一緒にやろう!」

2人がやったーとよっしゃーって叫ぶのが同時だった。

一気に周りに注目されたけどいいや、こんな嬉しいことないもん!

そう思って3人で拍手してたら、なんか周りの子たちも拍手してくれて、ちょっとした騒ぎになった。

私、ほんと友達に恵まれてるな。ありがとね、祥子、由美。

それから、夏織。

ありがとね。詩乃。

さて、やると決めたからにはしっかり部長やらせてもらっちゃうからね!

大変なのはこれから!でも、大変になるのがわかっているのにこんなに嬉しいのは、生まれて初めてだった。