詩乃と無事に寄りを戻せたのはよかったんだけど、新学期早々に、私は壁にぶつかった。

詩乃とよりを戻す前、私自身が変わらないとまた詩乃に依存してしまうと考えた私は、何か打ち込める物を探すことにした。

でも、そもそも私ってあんまり特徴ないんだよね…。もちろん日本史は好きだし、勉強は楽しい。でも学校の授業以外に時間をかけて調べたい事柄や人物はいないし…。

勉強がダメならサークル?とも考えたけど、運動は苦手だし…。文化系のサークルって言ったって何があるのかよくわからないし…。

『どうしたの?なんか難しい顔してるよ?』

と祥子。

私は今、祥子と由美と3人で学食にいた。

「あ、ごめん。」

『んん、全然良いけど、何か考え事?』

「うん、実はね」

この間詩乃に話したのと同じように話した。

祥子も由美も、黙って聞いていてくれた。

『うーんなるほどねぇ。』

と由美。

『やりたいこと、かぁ』

と祥子。

まぁ、そうなるよね。私自身が何も思い付いてないのに、皆いきなりこんなこと言われたって困るよね…。

3人それぞれが別の方向を向いて、うーんって唸る。

2人ともありがとね。

「なんか、ごめんね、変なこと言っちゃって。」

祥子が慌てた様子で言う。

『んん!こっちこそ、何もいえなくてごめんね。』

全然気にしないでね!まだ誰かに話す段階じゃなかったんだ。

もう少し自分で情報取集してみよう。






とは思ったものの、思ったようには進展してくれない…。

学校内にあるサークル勧誘の掲示板に言ってみたけど、そもそも勧誘に一番力を入れる時期はとっくに過ぎちゃってるし…。

今もこの掲示板には映画研究会と歴史文学研究会と、ミステリーサークルっていう名前だけでは全くどんな活動をしているかわからない物だけ…。

あぁ、頭が痛い…。

いや、考えていても仕方ない。次は図書館に言ってみよう!

と思って一旦校舎の外に出ると

『あれ?さぎりか?』

この声は!

「詩乃?」

やっぱり

『おう、どうしたんだ?こんなところで』

うん、それはねぇ





『なるほどね。それでこんなところにいたのか。』

成果は全くなかったけどね…

「うん。」

『その感じだと、成果はなさそうだな。』

「うん、そうなの。」

『焦ることないって。ゆっくり探そう。俺、これから図書館に行くんだけど、さぎりは?』

!偶然!

「私も!」

私がそういうと、詩乃はちょっとだけ目を大きくして言った。

『そうなのか!ちょうどよかったな!』

「うん!詩乃は図書館に何しに行くの?」

『おう、仕事に必要な資料があってさ、それを探しに。』

あぁ、聞いたらちょっと凹んだ…。やっぱりすごいな、詩乃は。

「そっか。詩乃はすごいね…」

『さぎりだってこれからすごくなるだろっ!俺と比べるなって。』

ありがと。でも、どうしたって全く焦らずにはいられないかも…。







結局、図書館でも大した物は見つけられなかった。

もちろん、そんなに簡単に見つかるとも思ってないけど、そもそも私、何を楽しみに生きてたんだろ?

ゆっくり探そうって言い聞かせるんだけど、どうしてもそんな風に考えちゃって、何だか疲れちゃったな。









『それで、私に相談に?』

私は、今、宇都宮駅近くの喫茶店に夏織と一緒に来ている。

夏織とは、夏休みの間にちょっとギスギスしちゃったけど、その後会ってちゃんと謝った。

夏織はすごくさっぱりした性格の子だからすぐに許してくれた。ありがとね。

「うん、夏織は、どんな大学生活してるのかなって…?」

すると、ちょっと困ったような照れたような顔をした。

あ、夏織がこう言う顔をするってことは…。

『私は、大学に入ってからは吹奏楽はやらないつもりだったんだけど…』

私は、ちょっと意地悪に聞く。

「けど…?」

『肇がね、楽しそうだったし、続けてみたらって…』

やっぱりね!柳瀬君の話だと思ったw

「なるほどね。じゃぁ、大学生活も勉強と部活とで大変なんだ?」

嫌味みたいな気持ちは全然なかった。むしろとっても夏織らしくて嬉しいのと、ちょっと羨ましいのと。

『まぁ、高校の頃みたいにバリバリやる部活でもないんだけどね。クラ吹くのは好きだし、良い息抜きにもなっててちょうど良いのよ』

「そっか。すっごく夏織らしくていいね!」

あ、照れてるw

『そうかな?でも、まぁ、ありがと。って私のことは別にいいでしょう?それより、さぎりがやりたいことの話でしょ?何か、ないの?』

んー何もなくて困ってるんだよね…。

「私も、色々探してみたんだけど、まだ何にも。漠然としすぎててどうやって探したらいいかもわからないし…。」

んーって唸る。夏織は、大学に入ってからは眼鏡をやめて、髪型も、ハーフアップにしてすっごく女の子らしくなった。

元々綺麗な顔だし、すっごく羨ましい。

柳瀬君も、誇らしいだろうなぁ。なんて、ちょっと見惚れてしまった。

『あのさ、これは、飽くまで私の考えなんだけど』

え?

「うん。」

ハッとして我に帰った。

『彼氏から自立したいって言う気持ちもわかるんだけど、やっぱり彼氏って、一番身近な存在じゃない?だから、もし本当に何も思いつかないんだったら、彼氏が仕事で作った記事を読ませてもらったらどう?』

夏織は、一旦区切ってまた続ける。

『私は、その彼氏がどんな記事を書いてるのか詳しくは知らないけど、例えば、ね?』

「うん。」

『歴史に限らずだけど、子供向けの図鑑とか、歴史の本って、わかりやすいように字が大きかったり絵が描いてあったりするじゃない?だから、彼氏が書いた記事を参考に、もっともっと子供向けの資料を作ってみるとか。あ、もちろん公にはできないだろうから、本当に趣味の話になっちゃうかもだけど…。さぎり、確か絵が上手だったなって思って。』




……



………なるほど!


それはすっごい面白そう!

「なるほど!さすが夏織!確かに、それなら元々歴史好きの私にはいいかも!」

夏織の顔が、パッて明るくなった。

『そう?よかった。やっぱりその方がさぎりらしいよ』

ん?

「何が?」

『その笑顔。さぎりはやっぱりそうやって笑ってた方がさぎりらしいって言ったのよ。』

ちょっと、いきなりそれは恥ずかしいよ///
ちょっと早口ってことは夏織も照れてるの?

『さぎりはさ、どんな時も笑顔でいて、周りの人も笑顔にするのよ。私が文化祭実行委員やってた時も、結構それに助けられたもん。』

やだ、ちょっとうるってきちゃった。

「…ありがと。夏織。」

夏織も、ちょっと涙目になってる。

『ほら、だから、こういうしんみりした感じはなし!せっかくやりたいことが見つかりそうなんだから、一生懸命やってみたら?さぎりが作った資料、よかったら私にも見せてよ。』

「うん!ありがとう!私、頑張ってみるね!」

ほんと、夏織と友達になれてよかったな。私達、親友になれるかもなんて、珍しくそんなことを思った。





宇都宮の駅まで夏織を送ったら、私はもう一度学校の方へ歩き出した。

正確には、詩乃の仕事場に向かって、だけど。

さっきメールしたら、今から行ってもいいとのことだった。

私は、もらっていた合鍵で部屋に入った。

ドアを開けるとすぐ、コーヒーのいい香りがした。

「お邪魔します」

『おぉ!ちょうどコーヒーが入ったぞ。』

2人並んで食卓に着く

『で、どうした?』

「うん、あのね。」

私は、さっき夏織がしてくれた話をしてみた。

『なるほどな!それは俺も大賛成だ。でも、一つ提案がある。』

ん?何だろ

『最初は俺が作った資料を子供向けに直すでいいと思うんだけど、作業自体に慣れたら、今度は1から作ってみた方がいい。時代ごととか、人物ごととか、題材はいっぱいあるだろ?あ、これは、俺が自分の資料を見せるのが嫌だとかじゃなくて、さぎりが1から作った資料なら、表に出せるからだ。』

なるほど。そっか。

『だから、資料作りのきっかけとして俺のを見せるのはOKだけど、自分で作ることを視野に入れておいた方がいいってことだな。あと、俺が見せる資料は持ち出しは厳禁だな。』

それはそうだよね。

なんかワクワクしてきた!文化祭の準備みたい!

「ありがとう詩乃!私頑張るから、仕事場にお邪魔すること増えるけどごめんね!」

『気にするな。さぎりなら大歓迎だ。』

よかった。これで私も何かを見つけられるかも!

頑張ろう!