せっかくの旅行だったにも関わらず、私の気持ちは晴れないままだった。
恒星と別れたことも、詩乃に依存して友達がいなくなったことも、夏織に軽蔑されたことも、全て忘れたかった。
その為に私ができることは1つだけ。
詩乃が喜ぶようなことをして、抱いてもらうこと。
そしたら、少なくともその間はなにも考えずにいられる。
だから、旅行中も何度も誘った。
何回抱かれたって気持ちいいし、愛されていることも、独占されていることも実感できた。
そして、疲れたら一緒に眠るだけ。
それで充分幸せだった。
幸せだったのに…。
2日目の夕方、詩乃が、私が泣いていることに気付いて話すことになった。
んん、もしかしたら、ずっと前から気付いていたのかもしれない。
それなら、今回も見逃してほしかったな…
『さぎり、大丈夫か?元気なさそうだな。』
「え?なにが?」
悟られないように、いつもの調子で返した。
つもりだった。
でも、詩乃には、多分バレていた。
『話したくないなら、それでいい。でも、嘘はつくな。嘘はあんまり好きじゃない。』
ちょっときつい言い方だった。
「ごめん、なさい。」
これしか言えない。
『さぎりは、せっかくの旅行だから重い話をしたくないと思ってるかもしれないけど、せっかく長い時間一緒にいられるんだから、普段話せないようなことを話してもいいと思うぞ。』
「うん。。」
そう言ったらまた言葉より先に涙が出てきた。
もう泣いている理由も自分でわからない。
『俺も言いたいことは言う。だからさぎりもなんでも言っていい。それに、俺はいなくならない。他の誰がいなくなっても、俺には関係ない』
詩乃は、ただただ優しかった。
でも、どんなに優しくたって、詩乃もいつかは…。
「うん…うん…。」
『泣きたいだけ泣いていい。思いっきり泣いて、綺麗さっぱり忘れよう。』
ありがとう。
ごめんね、詩乃。
「うん…詩乃…大好き」
3日目の朝、割と早くに目が覚めた私は、眠った時と同じように、詩乃の右手を掴んだままだった。
詩乃は、眠りながら泣いていた。
ごめんね…。
私のせいで、辛い想いさせて…。
でも、無理なの、1人でいられないんだよ…。
ごめんね。
このまま詩乃と一緒にいる権利なんて…私にはないのかも…。
夏織の言うように、一度1人で考えないといけないのかも…。
詩乃の寝顔を見ながらそんなことを考えていると、詩乃が唐突に目を覚ました。
私は、咄嗟に寝たフリをしてしまった。
なぜかはわからない…。
詩乃は、すっと起き上がると、そのまま洗面所の方に行ってしまった。
思わずため息が出る。
だめだ、このままじゃ…。
私は、ベッドに座って詩乃を待っていた。
ちゃんと向き合わなきゃいけない。後は、いつ、なんて言い出すか…。
詩乃は、10分くらいで戻ってきた。
ベッドのに座っている私を、見て意外そうに眉を少し上げた。
『起きてたのか。おはよう。』
元気がない。そりゃそうだよね。ごめんね。
「おはよう。お風呂に入ってたの?」
詩乃は、答えなかった。
こんなことは初めてで、私はこの一瞬だけでものすごく距離を感じてしまった。
途端になって言ったらいいのかわからなくなってしまった。
『さぎり』
「ん?」
急に話しかけられてびっくりした。
恐る恐る詩乃の顔を見る。
一見して穏やかな表情だけど、なんだろ?いつもより感情が読みにくかった。
話すのが急に怖くなった…今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる…。
『まだ、…のか?』
え?
「なに?ごめん、聞こえなかった…。」
嫌な沈黙…。
聞こえなかったけど、なんとなくなにを言われたから想像がついていた。
『いや、いい。』
よくないよ…。
たったこれだけなのに言えない…。
『…』
「…」
『あのさ』
「ねえ」
同時だった…
前にもあったな。こんなこと。
いつだっけ…?
誰とだっけ…?
『少し、時間がいると思う。』
そんな…
「どうして…」
『このまま一緒にいても、さぎりは嘘をつき続けることになるから』
嘘…?
「そんなこと」
『ある。気付かない訳ないだろ。』
「…そっか。」
『うん。時間は、いくらでもとっていい。ちゃんと気持ちを整理するんだ。』
いや…1人にしないで…
『このまま、嘘をつき続けるわけにはいかないだろ?俺にも、さぎり自身にも。』
そうだけど…
『話はいつでも聞いてやる。距離をおいていても、俺はさぎりの彼氏だから。』
待って…
『いつまでも待ってる。辛いだろうけど、これはさぎりが自分で答えを出さなきゃいけないことだ。わかるよな?』
嫌…わかんない
『俺も、できれば距離なんておきたくなかった。でも、いくら俺と一緒にいても、さぎりの中であいつの存在が消えなかった。だから、このまま一緒にいてもだめだ。』
詩乃のこと、大好きだよ…
『俺への気持ちが嘘じゃないことはわかってる。でも、あいつへの気持ちが消えていないことも事実だろう。ちゃんと、整理して、本当に大事なのがどちらなのか、考えろ』
詩乃…泣かないで…ごめんなさい。
「ごめんなさい…。」
『いや、いい。あの時、別れたばかりだとわかっていて声を掛けたんだ。俺のタイミングも悪かった。』
そんなことない。
「そんなこと、ないよ。私、すごく、嬉しくて…」
涙も嗚咽も止まらない…。
『あの時、さぎりが別れたと聞いて、チャンスだと思った。同時に、この機を流して、誰かに取られたくなかった…。』
詩乃…。
「ありがと。そんな風に、思って、くれてたんだね…。」
『そうだ。だから、これからもどこにもいかない。俺は、いつまでも、さぎりを待っている。』
ありがとう…。
こんな私のために…そこまで行ってくれるなんて…。
詩乃だけだよ。
ちゃんと、言わなきゃ。
涙は止まらないけど、どうにか息を整える。
「詩乃、ありがとう。私、ちゃんと考えるね。考えて、気持ちを整理したら、連絡するから。少しだけ、時間を、ください。」
話し出したらまた息が荒くなってしまった。
でも、ちゃんと、伝えなきゃ。
「私は、詩乃が大好き。だからこそ、ちゃんと向き合えるように、するね。」
詩乃は何も言わない。でも、落ち着いてた。
気配でわかる。
詩乃は、とっくに覚悟を決めてたんだ。
後は、私の問題だ。
もう一言、ちゃんと入っておかなきゃ。
「私のわがままに、付き合わせてごめんなさい。好きだって、大切だって言ってくれたのに、中途半端なことをしてごめんなさい。詩乃、ごめんなさい…ごめ…」
もう止められなかった。涙も嗚咽も。
詩乃も泣いていた。
それでもずっと、私を抱きしめてくれていた。
ありがとう。こんなに優しくて暖かい人、他にいないよ。
ありがとう、詩乃。
ごめんね…。
ごめんね。
チェックアウトを一日繰り上げて、帰ってきた。
帰りの車では、穏やかに話ができたし、旅行の最後に一緒に食事もできた。
これでお別れじゃないんだって、思えたし、むしろ、私にとっては始まりなんだって思えた。
詩乃はきっと、待っていてくれる。
今は、信じて、自分と向き合わなきゃ。
1人でいるということと、孤独であると言うことは同じじゃないと思う。
私は、しっかり自分と向き合うために1人になるけど、孤独じゃない。
きっと、また詩乃と一緒にいられると思うから…。
ごめんね、詩乃、待っててね。
恒星と別れたことも、詩乃に依存して友達がいなくなったことも、夏織に軽蔑されたことも、全て忘れたかった。
その為に私ができることは1つだけ。
詩乃が喜ぶようなことをして、抱いてもらうこと。
そしたら、少なくともその間はなにも考えずにいられる。
だから、旅行中も何度も誘った。
何回抱かれたって気持ちいいし、愛されていることも、独占されていることも実感できた。
そして、疲れたら一緒に眠るだけ。
それで充分幸せだった。
幸せだったのに…。
2日目の夕方、詩乃が、私が泣いていることに気付いて話すことになった。
んん、もしかしたら、ずっと前から気付いていたのかもしれない。
それなら、今回も見逃してほしかったな…
『さぎり、大丈夫か?元気なさそうだな。』
「え?なにが?」
悟られないように、いつもの調子で返した。
つもりだった。
でも、詩乃には、多分バレていた。
『話したくないなら、それでいい。でも、嘘はつくな。嘘はあんまり好きじゃない。』
ちょっときつい言い方だった。
「ごめん、なさい。」
これしか言えない。
『さぎりは、せっかくの旅行だから重い話をしたくないと思ってるかもしれないけど、せっかく長い時間一緒にいられるんだから、普段話せないようなことを話してもいいと思うぞ。』
「うん。。」
そう言ったらまた言葉より先に涙が出てきた。
もう泣いている理由も自分でわからない。
『俺も言いたいことは言う。だからさぎりもなんでも言っていい。それに、俺はいなくならない。他の誰がいなくなっても、俺には関係ない』
詩乃は、ただただ優しかった。
でも、どんなに優しくたって、詩乃もいつかは…。
「うん…うん…。」
『泣きたいだけ泣いていい。思いっきり泣いて、綺麗さっぱり忘れよう。』
ありがとう。
ごめんね、詩乃。
「うん…詩乃…大好き」
3日目の朝、割と早くに目が覚めた私は、眠った時と同じように、詩乃の右手を掴んだままだった。
詩乃は、眠りながら泣いていた。
ごめんね…。
私のせいで、辛い想いさせて…。
でも、無理なの、1人でいられないんだよ…。
ごめんね。
このまま詩乃と一緒にいる権利なんて…私にはないのかも…。
夏織の言うように、一度1人で考えないといけないのかも…。
詩乃の寝顔を見ながらそんなことを考えていると、詩乃が唐突に目を覚ました。
私は、咄嗟に寝たフリをしてしまった。
なぜかはわからない…。
詩乃は、すっと起き上がると、そのまま洗面所の方に行ってしまった。
思わずため息が出る。
だめだ、このままじゃ…。
私は、ベッドに座って詩乃を待っていた。
ちゃんと向き合わなきゃいけない。後は、いつ、なんて言い出すか…。
詩乃は、10分くらいで戻ってきた。
ベッドのに座っている私を、見て意外そうに眉を少し上げた。
『起きてたのか。おはよう。』
元気がない。そりゃそうだよね。ごめんね。
「おはよう。お風呂に入ってたの?」
詩乃は、答えなかった。
こんなことは初めてで、私はこの一瞬だけでものすごく距離を感じてしまった。
途端になって言ったらいいのかわからなくなってしまった。
『さぎり』
「ん?」
急に話しかけられてびっくりした。
恐る恐る詩乃の顔を見る。
一見して穏やかな表情だけど、なんだろ?いつもより感情が読みにくかった。
話すのが急に怖くなった…今すぐ逃げ出したい衝動に駆られる…。
『まだ、…のか?』
え?
「なに?ごめん、聞こえなかった…。」
嫌な沈黙…。
聞こえなかったけど、なんとなくなにを言われたから想像がついていた。
『いや、いい。』
よくないよ…。
たったこれだけなのに言えない…。
『…』
「…」
『あのさ』
「ねえ」
同時だった…
前にもあったな。こんなこと。
いつだっけ…?
誰とだっけ…?
『少し、時間がいると思う。』
そんな…
「どうして…」
『このまま一緒にいても、さぎりは嘘をつき続けることになるから』
嘘…?
「そんなこと」
『ある。気付かない訳ないだろ。』
「…そっか。」
『うん。時間は、いくらでもとっていい。ちゃんと気持ちを整理するんだ。』
いや…1人にしないで…
『このまま、嘘をつき続けるわけにはいかないだろ?俺にも、さぎり自身にも。』
そうだけど…
『話はいつでも聞いてやる。距離をおいていても、俺はさぎりの彼氏だから。』
待って…
『いつまでも待ってる。辛いだろうけど、これはさぎりが自分で答えを出さなきゃいけないことだ。わかるよな?』
嫌…わかんない
『俺も、できれば距離なんておきたくなかった。でも、いくら俺と一緒にいても、さぎりの中であいつの存在が消えなかった。だから、このまま一緒にいてもだめだ。』
詩乃のこと、大好きだよ…
『俺への気持ちが嘘じゃないことはわかってる。でも、あいつへの気持ちが消えていないことも事実だろう。ちゃんと、整理して、本当に大事なのがどちらなのか、考えろ』
詩乃…泣かないで…ごめんなさい。
「ごめんなさい…。」
『いや、いい。あの時、別れたばかりだとわかっていて声を掛けたんだ。俺のタイミングも悪かった。』
そんなことない。
「そんなこと、ないよ。私、すごく、嬉しくて…」
涙も嗚咽も止まらない…。
『あの時、さぎりが別れたと聞いて、チャンスだと思った。同時に、この機を流して、誰かに取られたくなかった…。』
詩乃…。
「ありがと。そんな風に、思って、くれてたんだね…。」
『そうだ。だから、これからもどこにもいかない。俺は、いつまでも、さぎりを待っている。』
ありがとう…。
こんな私のために…そこまで行ってくれるなんて…。
詩乃だけだよ。
ちゃんと、言わなきゃ。
涙は止まらないけど、どうにか息を整える。
「詩乃、ありがとう。私、ちゃんと考えるね。考えて、気持ちを整理したら、連絡するから。少しだけ、時間を、ください。」
話し出したらまた息が荒くなってしまった。
でも、ちゃんと、伝えなきゃ。
「私は、詩乃が大好き。だからこそ、ちゃんと向き合えるように、するね。」
詩乃は何も言わない。でも、落ち着いてた。
気配でわかる。
詩乃は、とっくに覚悟を決めてたんだ。
後は、私の問題だ。
もう一言、ちゃんと入っておかなきゃ。
「私のわがままに、付き合わせてごめんなさい。好きだって、大切だって言ってくれたのに、中途半端なことをしてごめんなさい。詩乃、ごめんなさい…ごめ…」
もう止められなかった。涙も嗚咽も。
詩乃も泣いていた。
それでもずっと、私を抱きしめてくれていた。
ありがとう。こんなに優しくて暖かい人、他にいないよ。
ありがとう、詩乃。
ごめんね…。
ごめんね。
チェックアウトを一日繰り上げて、帰ってきた。
帰りの車では、穏やかに話ができたし、旅行の最後に一緒に食事もできた。
これでお別れじゃないんだって、思えたし、むしろ、私にとっては始まりなんだって思えた。
詩乃はきっと、待っていてくれる。
今は、信じて、自分と向き合わなきゃ。
1人でいるということと、孤独であると言うことは同じじゃないと思う。
私は、しっかり自分と向き合うために1人になるけど、孤独じゃない。
きっと、また詩乃と一緒にいられると思うから…。
ごめんね、詩乃、待っててね。