事務所で先輩たちとこの日のフライトの振り返りをして、新人のみに与えられる報告書の記入を終えたのは十九時を過ぎた頃。

 更衣室で着替えをしていると、同じく初フライトを終えた同期の森本(もりもと)真琴(まこと)が入ってきた。

「あ、凪咲ー! お疲れ様。どうだった? 初フライト」

「お疲れ様。どうにか無事に終えることができたよ。真琴は?」

「私も緊張しちゃったけど、失敗することはなかったよ」

 私の顔を見て安心したのか、真琴はベンチに腰を下ろした。

 真琴とは入社試験で出会った。小柄でふわふわの天然パーマがトレードマーク。真っ直ぐで優しい真琴とはお互い地方大学出身ということで意気投合し、ふたりとも内定をもらった時は泣いて喜んだ。

 空港近くに借りたアパートも同じで隣同士。出会って間もないけど信頼できる仕事仲間であり友人でもある。

 着替えを終えてきっちりと後ろでまとめた髪をほどき、とかすためにクシを探しているとやっと真琴も立ち上がって着替え始めた。

「でも先輩でひとり、怖い人がいてさ。余計緊張しちゃったよね」

「そうだったんだ」

「うん。凪咲も一緒のフライトになることがあると思うし、気をつけてね。……ところで! どうだった? 凪咲の便の副操縦士、あの噂のパイロットの王子様だったんでしょ?」

「まぁ……」