玄関先で女将から「ぜひまたお越しください」と笑顔で見送られた。きっと女将は母を連れてきたものだから、私と誠吾さんがうまくいったと勘違いしているんだろうな。

 でも今度は必ず想いを伝えて恋人になって来るから、その時は女将にしっかり報告しよう。

 三人で駐車場へ向かうと思ったものの、母は途中で足を止めた。

「じゃあ私はここで」

「え? お母さんうちのアパートに泊まらないの?」

てっきり一緒に帰って泊まるものだと思っていたのに。

「今夜は駅近くのホテルに泊まって、明日の朝早くに中学の同級生と温泉旅行に行く予定なの。せっかく上京してきたから、二泊ほどゆっくりしてくるつもりよ」

「そっか」

 そういえば母が友人と旅行に行くのは初めてな気がする。きっと今までも誘われていたけど、私がいたから断っていたんだよね。

 久しぶりに会えたのにもう別れなきゃいけないのは寂しいけど、これから母には自分の時間を自由に使ってほしい。

「じゃあ楽しんできてね」

「えぇ。お土産期待してて」

 そんな言葉を交わした後、母はジッと私を見つめる。