「く、くそ!」

オリジナルフィギュアの上で、パイロットになるはずだった真也が、悔しがっていた。

何度も叫ぶ真也の声に、河村はオリジナルフィギュアを見上げた。

「まあ〜いいんじゃない。誰が乗ってもさ。元々、あたしはこの子の発動には、反対だったんだ」

蕪木は肩をすくめると、オリジナルフィギュアに背を向け、歩き出した。

「ど、どういう意味ですか!」

慌ててきいた河村に、蕪木は邪魔くさそうに言った。

「あたしとあたしの陸奥だけで、やつらを滅ぼせるわ」

その言葉を聞いて、河村は慌てて前を向いた。

「大した自信で」

そして、小声で言った。


蕪木はそのまま陸奥に乗り、再び海の中に消えた。



「どうする?」
「無理矢理開けるか」
「そんなことができるのか?」

オリジナルフィギュアの腹の上で葛藤する科学者に、立て掛けてある梯子のそばに来た老人が叫んだ。

「やめておけ!そんなことをしたら、この子は暴走するぞ!さっきとは違い、この子の中には愛され人がいるんじゃからな」

「愛され人!」

老人の言葉に、格納庫内は騒然となった。

「そうじゃ」

老人は頷くと、科学者達に告げた。

「こうなったら、中の坊やが自分で出たいと思うまで、出ることはない」

「うう」

科学者達は、言葉を失った。

「見張りだけつけておけ」

老人はそれだけ言うと、格納庫から出ていった。

(愛され人か)

河村は老人と蕪木が口にした言葉を、考えていた。

日本人なら誰もが知っている言葉であるが、実際に会うことは珍しい。

(そう言えば、さっきの人も愛され人か)

河村は蕪木を思いだし、にやりと笑うと、オリジナルフィギュアに背を向けて歩き出した。