彼の大きい目は真っ赤に充血して濡れていて、それでも美しいと思うのは気のせいではないはず。


「私は、…仁さんも壱さんも好き。大也のお兄ちゃんが好き。ナルシストでもリストカットしてても、仁さんが仁さんでいる限り、好き」


敬語を使うのも忘れ、彼の揺れる瞳を見つめ、必死に声にする。


どれだけ彼の自己肯定感が低くても、例えそれを隠す為に自分を過大評価し続けようとも。


私は、彼が自分自身を見失わない限り、彼の事が大好きだ。



はっとした様に息を呑んだ仁さんは、次の瞬間泣き笑いを浮かべた。


「っ…やだなぁ紫苑ちゃん、目から汗が止まらないよー…?」


「いやー、拭いてください…そんな事より、今日から仁さんの事お兄ちゃんって呼びますね」


このしんみりした重い空気を退かすように明るい声を出すと、


「え…何で」


案の定、涙を拭いている仁さんに怪訝な目を向けられた。


「大也に本当の事を言えるまで、私の事を血の繋がった妹だと思ってください。ね、お兄ちゃん?」


わざとらしく高い声を出して彼の肩をぺしりと叩くと、


「やだよそんなの、気持ち悪いじゃん…」


仁さんは本気でそう思っているのか否か、思い切り顔を歪めた。


「誰がですか?私は気持ち悪くないです。私、ずっとお兄ちゃんが欲しかったのでウィンウィンですよ」