「僕の事を嫌いになれば、その分あいつは強くなれる。僕みたいに自己肯定感が低い男になって欲しくなくて、嫌われる為ならなんでもやった。…それが、大也の為だと思って」


弟が強くなるなら、兄である自分は嫌われても構わない。


自分達が本当の家族だという事実は、兄の心の中に押し込めて。


(私だったら、絶対隠し切れない…)


その重荷をほとんど誰とも共有せず、何年も抱え込んできた彼には脱帽しかない。


私は、何の感情が生み出したのかすら分からない溜め息を零した。



「そんな中、ジェームズの養子になった僕を追いかけるようにあいつも養子になった。僕らは、ジェームズを通じて家族になった」


仁さんの話が再開し、私は黙って耳を傾ける。


「死ぬほど嬉しかった。実の弟の成長を間近で見られるなんて、これ以上の幸福はいらないって思ったんだ。大也は相変わらず僕の事を嫌ってたけど、壱とは仲も良さそうだったし気にならなかった」


兄にとって、弟の成長を間近で見られる事程嬉しいものは無いだろう。


しかも、それが自分の唯一の家族だとしたら、尚更だ。



養子縁組で法的に家族になった事で、大也の中での仁さんは見かけ上の兄になった。


大也の中ではあくまでも“法律上”の兄弟なわけで、そこに家族としての愛情なんて微塵も存在していない。