そう呟く彼から溢れ出るのは、“兄”として伝えられなかった弟への想い。
だけど、ある日壱を怖がった大也を見て、関わるのはやめようって決めたんだよ。
そう口にする仁さんは固く目を瞑っていて、自分の気持ちに抗っているように見えた。
「あの頃は壱の事を制御出来なくて、僕は養護園でも浮いた存在になってた。荒れてた壱は同じ部類の銀河と琥珀と仲良くしてたけど、それは僕じゃなくて壱。…僕は、必要のない存在だった」
壱さんばかり見られて、誰も主人格のはずの自分を見てくれない。
それは果たして、どんな気分だったのか。
「大也がもう少し大きくなったら、自分が血の繋がった実の兄だと話そうと思ってて。そしたら、一緒に引き取って貰える確率も上がるしね。…でも、現実って本当にクソだった」
私は、固唾を飲んで彼の紡ぎ出す言葉を追い掛ける。
「小さかった大也が壱を怖がって泣いたのを見た時、絶対に言えないって思った。どうせなら僕の事を嫌いになって欲しくて、わざと髪の毛の事をからかった」
(あ、だから……)
私は、思わず口元に手を当てた。
大也が未だに自分の髪を嫌っているのは、仁さんから貶されたという事実も少なからず関係しているはずで、そして彼はその事を意図的に口にした。
その一連の出来事が、二人の間に修復できない深い溝を創り出したのは明らかだ。
だけど、ある日壱を怖がった大也を見て、関わるのはやめようって決めたんだよ。
そう口にする仁さんは固く目を瞑っていて、自分の気持ちに抗っているように見えた。
「あの頃は壱の事を制御出来なくて、僕は養護園でも浮いた存在になってた。荒れてた壱は同じ部類の銀河と琥珀と仲良くしてたけど、それは僕じゃなくて壱。…僕は、必要のない存在だった」
壱さんばかり見られて、誰も主人格のはずの自分を見てくれない。
それは果たして、どんな気分だったのか。
「大也がもう少し大きくなったら、自分が血の繋がった実の兄だと話そうと思ってて。そしたら、一緒に引き取って貰える確率も上がるしね。…でも、現実って本当にクソだった」
私は、固唾を飲んで彼の紡ぎ出す言葉を追い掛ける。
「小さかった大也が壱を怖がって泣いたのを見た時、絶対に言えないって思った。どうせなら僕の事を嫌いになって欲しくて、わざと髪の毛の事をからかった」
(あ、だから……)
私は、思わず口元に手を当てた。
大也が未だに自分の髪を嫌っているのは、仁さんから貶されたという事実も少なからず関係しているはずで、そして彼はその事を意図的に口にした。
その一連の出来事が、二人の間に修復できない深い溝を創り出したのは明らかだ。