そして、航海が伊織と二言三言言葉を交わして握手をしているのを横目で見ていた時。
「…おい」
ナポレオンが馬から落ちてしまう程に威厳のある、例の警察官の声が響き渡ったのである。
「ひっ、」
徐々に笑顔を見せ始めていた伊織の顔が瞬きの合間に石像の如く固まり、その口からは悲鳴にも似たか細い声が漏れる。
琥珀と何のいざこざもない私でさえ鳥肌が止まらないのだ、伊織に至っては心臓をむんずと掴まれている様な恐怖に陥っている事だろう。
「誰が何と言おうと、俺はお前を許さない」
窓枠に寄りかかっていた琥珀の足音が近づくのを感じ、しゃがんだままの身体が強ばる。
ああ、きっと閻魔大王と琥珀が睨み合ったら、数秒のうちに閻魔大王の方が負けを認めるだろうな。
分かっていても、その残酷過ぎる言葉は私の心も容赦なく抉ってくる。
私の真横に仁王立ちした琥珀の右腕は、ただぶらりと垂れ下がっていた。
そんな彼の迫力に気圧されて見上げる事すら出来ない伊織は、ぽたぽたと床に涙を落とす。
「こは、……」
湊さんが彼の名前を呼び掛けるけれどあの鋭い眼光で睨まれたのか、一瞬で押し黙った。
「俺はお前を許さない。生涯恨み続ける。……だが、」
地面が揺れる程の凄みのある声が、足元から身体を震わせてきて。