(よし)


目に決断の光を宿した私が、水を打ったように静まり返った室内で言葉を発そうとした瞬間。



「ふっ…あはははっ…!ち、チャンスって…ひーっ、腹痛い無理っ…!」


とうとう堪えきれなくなったのか、大也の解放された笑い声に先を越された。


「何でこのタイミングで笑ってんだよ、」


引き笑いを始めた大也に全員の白い目が注がれ、銀ちゃんの低い声が鼓膜を揺らす。


「だ、だってぇー、…駄目だ思い出しただけでも笑えてくる無理…」


ヒィヒィ言いながら手で顔を仰いで何とか冷静を取り戻した彼は、ベッドの上にパンケーキの箱を置き、若干足を引きずりながら伊織の元へと向かう。


何が始まるのか分からない私は航海の袖を掴む手に力を込め、


「大丈夫ですよ」


何の感情も籠らない彼の声のせいで、余計に不安の気持ちが強まった。




「…ねえ伊織、顔上げて」


そのまま伊織の真正面に立った大也は、静かな声で彼の名前を呼ぶ。


それに導かれるように亀の遅さで顔を上げた伊織は、途端に顔を強ばらせてごめんなさい、と謝るものの。


「…何でさ、チャンス下さいなんて言うわけ?伊織はいつこの家族から抜けたの?」


現役ホストの紡ぐ言葉に驚いたのか、彼の身体の震えが収まった。