「っしゃあ、俺のパンケーキ!やばい待ちきれない!奢りあざす!」


その言葉を聞き逃さなかった大也が、ふわふわに整えた髪の毛を振り乱して喜びを全身で表現する。


「あのさぁ、君も良い大人なんだからちょっとは落ち着きを覚えたらどうなの…。犬の方がしっかりしてるよ」


「いやいや、どう考えたって比較対象おかしいでしょ」


瞬時に仁さんが呆れた顔で文句を垂れ、弟はぷくっと頬を膨らませた。



結局、仁さんは大也に真実を伝えそびれ、もうこのままの関係で過ごす事に決めたらしい。


盗みの最中、私がアジトに潜入した事で仁さんは覚悟を決めて現実世界に顔を出したものの、運の悪い事に敵と鉢合わせしたせいで話をするどころでは無かったようで。



ジェームズさんの結婚式後、彼らの養子縁組は約束通り破棄される事となった。


法律上の家族ではなくなったから、もしかしたら大也は再び仁さんを“兄”呼びはしないかもしれない。


それでも、


『大也に“兄ちゃん”って呼んでもらえたから、思い残す事は何もないよ』


ホテルのベッドに大の字に横たわった彼が、まるで悟りを開いた様な優しい顔でそう呟いていたのが印象に残っている。