何があったのか、彼はいつも下ろしている長い前髪を頭の上でちょんまげの様に結いていて、その風貌は完全なるニートのそれである。


伊織の姿をその双眸に捉えた彼は、


「うおっ、視界が良過ぎて気持ち悪ぃ」


とか何とか言いながらも、


「良い所に来たな。俺はこれから45階に突入して一発やってくるから、お前はコイツ操作してろ」


自分の隣をポンポンと叩き、座るように指示しできた。


言われた通りに彼の隣に座ると、


「良いか、今俺はこの盗みにおける超絶大事なハッキングをしてる。今から3秒で説明するから聞いとけよ」


凄みのある言葉がその口から発せられた。


それだけで、伊織と銀河の周りを纏う空気の色が一変する。


伊織が頷いたのを見た銀河は、3秒という言葉に相応しい程の早口で、簡潔で端折り過ぎな説明を始めた。


「まず、45階の此処にはこれがある。これを止めるにはこの作業が必要で、あと30秒でアラームが鳴るからそれを止めてここを右クリックだ。その後は自動的に分析が始まるから、終わり次第“STOP”のボタンを押せ。良いな」


(うっ、…)


余りの早口さに目が回りそうだ。



しかし、彼の説明の内容を何とかして理解した伊織は頷いてその意を示した。


「おお、流石だな」


よしよしと何度も頷いた天才ハッカーは、満足そうに笑って俺の背中をバシンと叩き。


「分かんない事があれば何でも聞け。俺はちょっくらケリつけてくる」




盗みの最後に現れ、花道を通って手柄だけを横取りする怪盗mirageの最後の駒に相応しく、片手を上げて一直線に皆の居るアジトへと走り去っていった。