やはり彼は、怪盗フェニックスの事を知り尽くしているようだ。


その揺るぎない声は、取り乱しかけていた俺の心を一瞬で鎮める。



「うん、…そうだね。全部終わったら探そう」


数秒後、俺がそう言って微笑むと、


「ああ、それが良い」


背後から、鬼の琥珀も同意してくれた。



「分かりました。…ああそれとですね、この無線機壊れてないみたいなのであげます。はいどうぞ、伊織さん」


そして、俺達の一連の会話を聞いて納得したらしい航海は、真面目くさった顔で頷きながら無線機をこちらに向かって投げてきた。


「あっぶな…!えっ、何で俺に…?」


慌てて前のめりになってそれをキャッチした伊織は、不思議そうな顔を浮かべる。


「何でって、伊織さんも怪盗mirageですよね。情報共有出来なくてどうするんですか」


俺達の周りに、涼しい風が吹き抜けた。


「っ…、」


隣に立つ情報屋が、息を呑んだのが分かる。



前までの伊織なら、全力で拒否していたかもしれない。


誰にも何も言えずに病んでいた俺よりも激しく泣いたかもしれない。



けれど、今回の彼は、


「うん……ありがとう、」


熱いものを堪えるように下唇を噛むと、ゆっくりとイヤホンを耳に付けた。