「20階…20階に、仁はいる」


俺の口から漏れ出た階数を聞いた航海は頷き、伊織はすぐさまクレーン車を動かすように誰かに指示を出し始めた。



この直後、このクレーン車を操縦している人の名前を琥珀から聞いた俺が驚きと喜びと興奮で奇声を発したのは、また別のお話。




「此処ですね?どの辺に居ますか?仁さんの顔だけ拝んだらマッハで45階まで向かいます」


すぐに20階の窓際まで移動したクレーン車の中、殺る気満々の航海が腕のストレッチをしながら口を開いた。


覚醒したせいもあって有り得ない程元気いっぱいに見えるけれど、実際はそうでもしていないと辛過ぎて自我を保つ事すら出来ないのだろう。


「部屋の奥に居る!俺のジャケットを顔に被せといたからすぐ分かると思うよ」


対する俺の声も、底抜けに明るくて。


「了解です、行ってきます」


最後にこちらを振り向いたサイコパスは俺達の方に敬礼をすると、窓から室内に飛び込んだ。



「…行っちゃったね」


「…ああ」


再び、カゴの中には静寂が訪れた。


しかし、無理にでも気分を上げていかないと壊れそうだった俺は、いつもの様に笑顔になって琥珀の肩をビシバシと叩いた。


「俺らも早く戻んないとね!琥珀は何階行く?」