(えっ、……)


そんなに言わなくても…、と、内心ぎょっとした俺は彼の顔をまじまじと見て気付く。


航海の頬にはいく筋もの赤い線が流れていて、それが彼の目から流れた血を含む涙だという事に。


彼は感情の起伏が薄くて表現も苦手だから、取り乱していた俺は全く気付いてあげられなかったけれど、航海も航海で深い悲しみの渦に呑まれているのだ。



正直、俺を含めた此処に居る全員が、このまま盗みを続けられるような精神状態ではない。


皆酷い怪我を負った、仲間の死を伝えられた、苦しむのはもう沢山だ。


けれど、それでは仁と壱の死が報われない。



今現在、怪盗フェニックスのアジトに居るのは湊、紫苑ちゃん、そして笑美の操縦するドローンである。


どう考えても人数の少ないこの状況で、どんなに逃げ出したくてもそれを言うのは許されないわけで。


仲間を大量に殺され、怪我を負わされた怪盗フェニックスは死ぬ気で俺達に挑んでくる。


それならば俺達も、それに負けない程の力で挑まなければ。



亡くなった仁と壱の分も闘志を燃やし、狂いそうな程の怒りを力に心で闘う。



(出来る出来る、…俺なら出来る!)


悲しみの沼から抜け出そうと手を伸ばすと、航海が俺の手を掴んで立ち上がらせてくれる。


涙の跡が残る頬をパチンと叩いた俺は、ふーっと息を吐いて無理やり口角を上げた。