しかし、はっとしたようにすぐさまその手を引っ込めた伊織は、行き場の無くなったその手でカゴの隅を指差した。


感謝の言葉を言うタイミングを逃した琥珀がそちらを向くと、


「あ、アイスコーヒーももあるんですね!銀河さんの所から貰ってきたんですか?」


端に置かれたサンドイッチやホットドッグ等の軽食と共に、ペットボトルに入ったアイスコーヒーを手に抱えた航海の姿があった。


(……、)


その余りの用意周到さに、琥珀は開いた口を塞ぐ事すら出来ず、


「いや、これは此処に来る前にリンちゃんとスーパーに寄って買ったんだ。口に合わなかったらごめん」


続いて伊織の口から飛び出した人名に、目をひん剥いた。



「…おい、お前今何て言った?“リンちゃん”?」


リンちゃんと聞いて思い浮かぶ人はたった一人しかいない。


そう、琥珀のペアで後輩の中森 リンである。


琥珀の声が想定以上に低く恐ろしいものだったのか、瞬時にこちらを向いた伊織の顔は刑務所で見た時と同じものに戻っていて。


「ご、ごめんなさい…。初渡米したいって聞かなくて、何回も止めたんですけど、…」


まるでマッサージチェアに座っているのかと勘違いしそうな程の声の震えように、琥珀は若干気の毒になりながらも再度質問をぶつけた。


「それで、あいつは今何処にいるんだ」