「…こうしたら?」


「痛い」


それからしばらくそんなやり取りを繰り返していると、伊織はなるほど、と呟いて琥珀の腕から手を離した。


それに反応して彼の方を向くと、情報屋は若干深刻そうな表情を浮かべていた。


「…多分、骨折はしてないと思う。肘の部分の骨にヒビが入っちゃったんだと思うから、応急処置だけするね」


ゆっくりとそう言った彼がカゴの隅の方から持って来たのは、簡易的な応急処置セット一式が入った箱だった。


その箱は、やはり琥珀には馴染みがないもので。


テンポ良く添え木を当て、上からぐるぐると包帯を巻いていく彼をしげしげと眺め、琥珀はぽつりと呟いた。


「何でこんなの持ってんだよ…」


その問い掛けに、彼の手が一瞬止まる。


「…何でって、罪人の俺が出来る事はこのくらいしかないから」


筋肉質な左腕に包帯を巻きつつ、彼がじっと見ているのは琥珀の棒のような右腕。



「…はい、出来た。あんまり動かさない方が良いと思うけど、…そこは任せるよ」


慣れた手つきであっという間に包帯を巻き終えた伊織は、厚い包帯の上から琥珀の腕をそっと撫でた。


「今、盗み中だもんね…。航海も琥珀もすぐ戻る?もし小腹が空いてるなら、何か口にしてからでもいいし…。飲み物もあるよ」