その様子から、航海が伊織に対してあからさまな負の感情を見せていない事は明らかで。


航海の感情の感じ方は通常の人とは異なっており、欠落している部分もあるから彼の真意は分からない。


それでも、伊織に対する航海の接し方は、傍から見れば普通だった。


対する伊織は、航海と話すのは実に3年ぶり。


その固い表情や口調や声色、そして本気の謙遜ぶりからは、OASIS攻めの時を未だに引き摺っているのが目に見えて分かった。



そんな彼らをただ傍観していると、


「あ、琥珀の手当てしないと!」


琥珀の腕の状態を思い出した情報屋が、ぽんと手を打った。


「航海、今から琥珀の手当てするからちょっと静かにしててね?」


伊織の声に、覚醒したサイコパスは黙って頷いて。


「横向くぞ」


「うん、ありがとう」


左腕が伊織に見えるようにと横を向くと、綺麗な赤い夕焼けが目を奪った。


オレンジ色の太陽が遠くの海を明るく染め、周りに漂う雲も模様替えをしている。


(綺麗だな……)


ふとそんな事を思ったのもつかの間、


「…ここ痛い?」


急に伊織が左腕に触れたものだから、琥珀は梅干しを食べた後のように顔を顰め。


「ああ」


喉の奥から、声を絞り出した。