｢…お前、何で此処に…｣


伊織に支えられながらクレーン車に乗り移った琥珀は、手すりに寄りかかって身体を支えながら唖然と呟いた。


もう、伊織が助けに来た辺りから頭が追い付いていない。


クレーン車だの何だのと、此処は漫画の世界か。


｢ああ、僕ですか？エレベーターの中でゴタゴタがあって、運悪く落下しちゃったところをタイミング良く伊織さんが助けてくれたんですよ！｣


…何だそれは。


随分と端折られた説明でかなり意味不明だけれど、とにかく伊織に助けて貰ったということは理解出来た。


｢なるほどな…｣


こんな非現実的な話を“なるほどな”の一言で終わらせていいのか分からないけれど、生憎琥珀はこの場に相応しい言葉を思いつく程の語彙力を持ち合わせていなかった。


とりあえず相槌を打った彼の隣では、


｢いやあ、流石でしたよ伊織さん！真っ逆さまに落ちていく最中に手を掴まれてなければ、僕は今頃首を折って死んでたでしょうから。伊織さんは僕の命の恩人です｣


｢駄目だよ、そんな風にお世辞ばっかり言っちゃ…。あれはたまたまなの、たまたま｣


よく見れば琥珀の何倍も返り血を浴び、覚醒して目が赤く染まった航海が不自然な笑顔を浮かべて伊織に話し掛け、彼の命の恩人は顔の前でぶんぶんと大きく手を振っていた。