自分達が伊織に頼んだのはあくまで予備のパソコンであり、断じて切断道具ではない。


しかもこんな巾着袋は家には無いはずだから、まさか自分で調達したのだろうか。


何故彼がこんなに用意周到なのかと疑問に思いながらも、琥珀は彼の集中を切らさない為に口を噤んだ。



「…よし、これで大丈夫。痛い所はない?撃たれたりとか」


流れる汗を拭いつつ、伊織が全ての鎖と縄を切り終えたのはそれから数分後の事だった。


琥珀はそんな彼の手を借り、ちぎれた縄と鎖を踏みつけるようにしてゆっくりと立ち上がった。


長時間同じ体勢だったから大きく伸びをしようとしたら左腕が猛烈に痛み、


「あー、…左手が、折れたかもしんねぇ」


そういえば、と、小さな声を出した。


「え"、」


瞬間、床に座って使ったものを丁寧に巾着袋に入れていた伊織が、奇怪な声を上げて俺の顔を見上げた。


「…と、取り敢えず此処じゃ危険だから外に行こう。クレーン車に乗ったら、手当てするから」


慌てた様に目を左右に動かし、残りの物を雑に巾着袋に入れて立ち上がった彼は、真っ直ぐに割れた窓の方へと向かって行く。


(クレーン車…?)


今のは空耳だろうか。