「…そう思うならさ、」


貿易会社に到着した私は、迷いもなく血で塗れた階段を駆け上がる。


「私の事を考えられる暇があるなら、皆ももっとチームの事考えてよ!」



瞬間。


あれ程騒がしかった無線機の向こう側が、水を打ったように静まり返った。


「皆は怪盗mirageで、私達は家族だよね?1人も欠けずに帰ってくるんでしょう!?なら、こんな大事な時に仲間割れなんてしないでよ!」


開け放たれたドアの向こうから、mirageが倒し切れなかったのか、足を引きずった大男が姿を現した。


いつもなら怖がる場面だけれど、皆に語り掛けている最中の私は、邪魔をされた事に対するありったけの怒りをそいつにぶつけた。


「ちょっと邪魔してこないで!今こっちはmirageに話し掛けてる最中なの!」


怪我をしている方の足をすくい取り、無惨に転んだその男の顔面に勢い良く飛び蹴りをかまして座り込む。


そのままの体勢で敵の懐をまさぐりながら、私は言葉を続けた。


「大也!聞こえてる!?大也は養子縁組が解消された事に対して落ち込んでるけど、私達の間には養子縁組よりもっと大きな絆があるよね!?」


『っ……!?』


壱から距離を取って静かに敵との間合いを詰めていた大也が、イヤホンから流れる声を聞いて絶句した。