コンプレックスというものは恐ろしいもので、それはいつなんどきでも俺の心を黒く支配する。


ウィッグという存在を知らなかった頃、俺にとっての白髪はからかいの対象でしかなかった。


そんな俺を庇い、養護園に居たいじめっ子を言葉の暴力でねじ伏せたのは壱。


彼の双子の兄はいじめっ子側だったから、最初は対応に困ったけれど今ははっきりと分かる。



俺にとっての悪人は仁、恩人は壱なのだと。



そんなこんなで今の俺達の関係性は出来上がっているから、やはりあの考えが頭の中をちらついてしまう。


スタンガンのスイッチを入れて壊れていないか確認している壱の肩に、俺はぽんと手を置いた。



「…ねえ、このまま仁の身体乗っ取れないの?もう、主人格は壱でいいよ。仁と琥珀は今大喧嘩してるし、壱のままの方が良い気がする」



「っ…?」


壱の肩がびくんと跳ね、彼はゆっくりとこちらを振り返った。


その目は大きく見開かれていて、瞳はゆらゆらと小刻みに揺れている。


「お前、………それ、は、」


彼が絞り出した圧を含まない声は、小さく震えていた。


(ん?俺、何か変な事言った?)


俺や琥珀にとっても条件が良いその提案は、現実世界に長く留まりたいという壱の願いも叶える事になるからウィンウィンの関係のはずだ。