再びスマホを耳に当てると、銀河の開き直った声と、


『ねえー、そこは大丈夫って言ってよー!気が気じゃないんだから!』


『怖い事言わないで鳥肌立ってる今!』


大也と思われる甲高い声と、随分と近くから女性特有の綺麗な高い声が聞こえてきた。


(大也、…紫苑ちゃん…)


数年前に傷を負わせてしまった彼らの元気そうな声を聞くだけで、それだけで安心して泣きそうになる。


しかし、この2人の声が聞こえるという事は、あちらはスピーカーフォンにして自分の声が聞こえるようにしているのだろう。


言葉一つ一つを選びつつ、伊織は乾いた唇を舐めた。


「それで、どうするの…?」


『よくぞ聞いてくれた』


銀河は、電話口で真面目な声を出した。


『予備のパソコンが家にあるから、それを持ってアメリカに来てもらいたい。決行日は明後日だから、なるべく早く飛行機に乗ってもらえると助かる』


(え、)


「ちょっと待って、そんなの無理だよ…」



この人は、裏切り者の自分になんて事を頼んでいるのだ。


そんなのリンちゃんに頼めばいいではないか、そもそも自分は塀の中にいる身なのに。


自分が怪盗mirageと対面するなんて、考えただけでも申し訳なさすぎて吐きそうになる。