「え、…?」


(待って、俺何かした…?)


いや、思い当たるのは1つしかない。


数日前、紫苑ちゃんからの手紙に同封されていた飛行機のチケット。


皆が揃ってアメリカに行ってしまったのに、自分だけ怖くなって直前で行くのを辞めたあの件だろう。


(どうしよう、怒られる)


今まで感じていた眠気は何処へやら、今度は逆に電話の向こうに居る相手への恐怖で顔が青ざめていくのを感じる。


「い、いや、出れないよ、」


慌てて顔の前で手を振ったものの、


「…琥珀さんに、伊織さんからの拒否は許さないって言われました」


爆弾の如き身の毛もよだつ一言が、伊織の乾いた心を貫いた。


「絶対大丈夫ですから、取り敢えず出て下さい。ほら」


鉄格子越しにスマホを渡され、下唇を噛み締めていた伊織はとうとう観念してそれを手に取った。


目の前にいる警察官にも聞こえるように鉄格子にもたれ掛かるようにして座り、音量を大きくしてスマホを耳に当てる。



『…伊織、そこに居るか?』


するとすぐに聞こえてきたのは、懐かしい家族の声。


(銀河、…)


その声は棘のない柔らかな響きを持っていて、伊織の干からびた心に一粒の雨水を落とす。