「家までどうやって帰るんですか?」

「電車で来たんですけど、これじゃ乗れないですよね。タクシーかな」

「タクシーも嫌がられますよ」


 たしかにそうだ。こんな人間を乗せたら車のシートが汚れてしまう。
 だからと言って歩いて帰るには距離があるので、やはり電車しかないのかも。
 すいている車両なら、ドア際に立っていればほかの人の迷惑にはならないだろう。多少恥ずかしいのは覚悟しなければいけないが。

 帰る手段をあれこれ考えていると、男性が近くに落ちていたジッパー付きのパーカーを拾いに行き、こちらに戻ってきた。
 私を助けようと海に入る前に、どうやらここで彼が脱ぎ捨てたものらしい。


「とりあえずこれで応急処置」


 パーカーのポケットを漁って財布とスマホを取り出したあと、彼はそれを私の腰に巻きつけた。


「だ、大丈夫です」

「いいから」


 びちょびちょのスカートが太ももに張り付いている状態なので、見るに見かねたのかもしれない。
 だけどその心遣いがうれしかった。